下田船渠

下田船渠の歴史

下田船渠（しもだせんきょ）は、静岡県下田市に位置していた造船会社で、日本の造船業の歴史の中で重要な役割を果たしていた。設立は1898年（明治31年）で、天明の時代から造船業を営んでいた澤村家が設立者である。初代社長の澤村久右衛門は、下田船渠とは別に澤村造船所を経営しており、下田船渠はドックを保有するのみで、自社での造船は行っていなかった。

造船所の設立と初期の運営

下田船渠は1902年に株式会社に転換したが、その後は入渠する船の数が少なかったため、経営は厳しい状況にあった。1908年には、東京湾汽船との間で20年間のドック貸出契約を結び、ドックを賃貸することで経営を維持しようとした。その後、東京湾汽船では客船が建造されていたが、船舶の大型化、鋼船化が進む中、関東大震災により東京湾汽船の工場が被害を受けた。このため、下田船渠は新会社を設立し、澤村造船所としての設備を引き継ぎ、東京湾汽船の協力により建造能力を拡張することとなった。これにより、下田船渠は自社での一貫した建造が可能な造船所へと成長した。

経営の変遷と解散

しかし、その後の経営は順風満帆ではなかった。大洋漁業グループの傘下に入ったものの、1985年に経営が悪化し、来島どっくグループの傘下に移ることとなった。この際、350名の人員を160名に減少させ、新造船事業を継続することが条件であったが、結果的には新造船の建造は行われず、修繕船の業務が中心となった。1987年4月には静岡銀行からの融資が打ち切られ、その後は経営の合理化を図るも、組合側からの合意を得られず、同年の11月27日に臨時株主総会で解散が決議された。これにより、創業90年以上を誇る地域の中核企業としての下田船渠は幕を閉じた。

地域への影響と跡地の利用

下田船渠の解散は、多くの人々に衝撃をもたらし、国会でも取り上げられるほどの問題となった。解散後、造船所の跡地はバブル時代にリゾート開発の計画が持ち上がったものの、実現には至らなかった。現在ではその場所は岸壁や港湾用地、駐車場として使用されている。また、澤村久右衛門が1915年に建てた邸宅は現存し、1985年に歴史的建造物として指定され、2008年には下田市に寄贈されている。2010年から2011年には耐震改修やリノベーションが行われ、「旧澤村邸」として2012年に観光交流の拠点としてオープンしている。

まとめ

下田船渠は、日本の造船業において重要な役割を果たした企業であった。設立から解散に至るまでの歴史は、地域経済や社会にも大きな影響を与えた。現在はその名残として、旧澤村邸が地域の観光名所となり、過去の栄光が伝えられている。

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