不如帰 (小説)

小説『不如帰』の概要

『不如帰』（ほととぎす）は、明治31年から32年にかけて國民新聞に連載された徳冨蘆花の小説で、1900年に出版され、瞬く間にベストセラーとなりました。作品名の読みについて、蘆花本人は「ふじょき」としていたものの、現在は「ほととぎす」と広く読まれています。

物語の概要

物語の中心に位置するのは、片岡中将の娘・浪子です。彼女は冷淡な継母や魅力的な千々岩、気難しい姑に苛まれながらも、海軍少尉の川島武男男爵との幸せな結婚生活を楽しんでいました。しかし、日清戦争に出征した武男の不在が彼女の運命を変えます。浪子は結核のために離婚を余儀なくされ、愛する夫を待ちながら命尽きる運命にあったのです。浪子の名セリフは、日本近代文学の象徴とも言える名台詞となりました。また、家庭内での新旧思想の対立、当時の伝染病に対する知識の乖離といったテーマは、一般大衆に共鳴し、多くの読者を惹きつけました。

作中には実在の人物がモデルとして描かれ、だからこそ当時の読者は作品を真実と信じ、モデルとなった人物に無実の風評被害を与えることもありました。特に記憶に残るのは、浪子が夫を見送る際にハンカチを振るシーンで、このシーン以降、別れを告げる道具としてハンカチが象徴的に使われるようになったことです。

あらすじの詳細

浪子は幼くして母を失い、父・片岡中将のもとで冷たい継母の影響を受けながら育ちました。18歳になった彼女はついに川島家の武男と結婚し、初めて真の幸せを実感します。新婚生活は夢のようで、明るく楽しいものでした。しかし、夫が遠洋航海に出てしまうと、浪子は姑との厳しい関係に苦しみ始めます。

彼女は半年ぶりに夫と再会しますが、風邪から結核を発症し、静養のために逗子に転居。その間に、浪子に密かに思いを寄せていた千々岩が彼女を陥れ、武男の不在を利用して彼女との離婚を画策します。武男は戦場へ赴く直前にこの事実を知り、心を痛めつつ、戦いへと殴り込むのでした。

武男は戦場で片岡中将を救う英雄になり、無名の小包を受け取ることで浪子のほのかなつながりを感じます。それぞれの土地で心の絆を深めながらも、彼らは物理的に離れたままとなります。

浪子の病は悪化の一途を辿り、最終的には彼女は家族に遺書を託し、静かにこの世を去る決意をします。彼女の死を知り、武男は深い悲しみを抱えながら帰国します。川岸で自身の愛する者を慰める中将の姿と巡り合い、親子の絆を再確認する場面で物語は幕を閉じます。

反響と影響

明治31年11月に連載が始まり、翌年5月に一旦完結した作品が改訂を経て、1900年に刊行され、読者の心を掴みました。初版はあまり良い出来ではなかったものの、新聞の好意的な評判や人気が広まり、最終的には50万部以上が売れました。

『不如帰』は、恋愛の悲劇だけでなく、社会的な問題とも向き合った作品であり、後の日本文学にも大きな影響を与えました。その内容を元にした映画や舞台が数多く制作され、文化的な普遍性を持つ名作として今もなお人々に親しまれています。文学史に名を残す貴重な作品として、これからも様々な形で語り継がれていくことでしょう。

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