不連続殺人事件

坂口安吾『不連続殺人事件』：戦後推理小説の異色作

『不連続殺人事件』は、坂口安吾が初めて手掛けた長編推理小説であり、戦後の日本を舞台にした異色の作品です。一見無関係に見える殺人事件が連続して発生し、名探偵・巨勢博士がその謎に挑む物語は、多くの読者を魅了しました。雑誌掲載時には、読者への挑戦として真犯人当ての懸賞金がかけられ、大きな話題となりました。

あらすじ

物語は、第二次世界大戦終結から2年後の1947年夏、N県にある財閥・歌川多門の邸宅で始まります。流行作家の望月王仁が殺害されるという事件が発生し、現場からは複数の女性の指紋や所持品が見つかります。歌川家には、多門の息子・一馬によって様々な人々が招待されていましたが、招待状は偽物である可能性が浮上します。招待客や使用人を含めた29人が滞在する歌川邸では、複雑な人間関係と憎悪が渦巻いており、その夜から連続殺人が始まります。

珠緒、セムシの詩人・内海明、千草と次々に殺害されていき、一週間後には、加代子と多門が毒殺されます。一貫性のない動機、予測不能な犯行。事件は「不連続殺人」と呼ばれるようになります。そして、第6の殺人から10日後には、女流作家の宇津木秋子が殺害され、さらに6日後には一馬が毒殺されるという悲劇が起こります。警察が翻弄される中、ついに8人もの犠牲者を出し、歌川家は滅亡へと向かいます。

真相に近づいていた巨勢博士は、最後の殺人を阻止するために奔走しますが、警察の挑発によって犯人が誤認し、最後の殺人が起きてしまいます。事件後、博士は残された人々を集め、犯人が唯一犯したミスから「心理の足跡」を辿り、事件の真相を解き明かします。

作品の背景と評価

坂口安吾は、少年時代から欧米の探偵小説に親しみ、戦時中には仲間と犯人当てゲームを楽しんでいたことが、本作執筆のきっかけとなりました。安吾は読者を驚かせるような作品を書きたいと考え、大地書房の雑誌『日本小説』に連載を申し込んだとされています。

『不連続殺人事件』は、発表当時から高い評価を受け、江戸川乱歩は「トリックにおいて内外を通じて前例のない新形式が考案されていた」と絶賛しました。また、松本清張は「日本の推理小説史上不朽の名作」と評し、複雑な人間関係がトリックとして機能している点を評価しました。1949年には、第2回探偵作家クラブ賞（現在の日本推理作家協会賞）を受賞しています。

映像化作品

本作は、1977年に曾根中生監督によって映画化されました。また、1990年にはフジテレビで2時間ドラマとしても放送され、幅広い層に親しまれています。

映画『不連続殺人事件』（1977年）：監督 - 曾根中生、主演 - 小坂一也
ドラマ『昭和傑作推理選 不連続殺人事件』（1990年）：演出 - 若松節朗、主演 - 野村宏伸

『不連続殺人事件』は、戦後の混乱期を背景に、人間の欲望や憎悪が複雑に絡み合った異色の推理小説です。坂口安吾ならではの独特な文体と、予想を裏切る展開は、今もなお多くの読者を魅了し続けています。

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