世俗化

世俗化の概念と歴史

世俗化（せぞくか）とは、特に宗教社会学において用いられる理論で、近代社会における宗教の衰退を表す考え方です。この理論は、歴史的に多くの学者によって様々に議論されてきました。

初期世俗化論とその批判

世俗化の議論は、古代からの思想家にまでさかのぼることができます。オーギュスト・コントは「三段階の法則」を提唱し、宗教が科学に取って代わられると予見しました。また、マックス・ヴェーバーは合理化による脱呪術化を指摘しています。1960年代には、世俗化が現代社会に深く根付くという議論が盛んになり、ピーター・L・バーガーは中世キリスト教の影響を「聖なる天蓋」に例え、人々が宗教を選択する個人の問題へと移行する過程を述べました。

世俗化は、合理性や科学が社会生活の基盤となる一方で、宗教が信憑性を失う歴史的なプロセスとして理解されます。しかし、宗教の衰退に対して懐疑的な意見も存在していました。トーマス・ルックマンは、宗教が個人的な側面を持つようになる過程を指摘し、宗教的規範が社会的な力を失っていく現象について考察しました。

1980年代以降の動向

1980年代以降、宗教の私事化に関する再評価が進み、特にイスラム主義の台頭やアメリカにおける宗教復興が議論の焦点となりました。ホセ・カサノヴァは、宗教が再び公的な領域に進出しているとし、従来の世俗化論の射程外である新たな動向と位置づけました。また、世俗化の議論の背後には、かつて宗教が重要視された時代があったという前提が存在しますが、この見解には批判もあります。たとえば、当時の信者や聖職者の宗教知識が必ずしも高くなかったという指摘です。

修正世俗化論

こうした討論を踏まえ、世俗化論の見直しが行われています。カーレル・ドベラーレは世俗化を、社会全体、組織、個人の三つに分けて議論しました。社会全体での世俗化は、宗教が社会に対して影響を持つ力を失う過程を示しています。一方、組織レベルでは、宗教的儀式が制度化されることが挙げられ、個人のレベルでは信仰心の低下が見られます。背景には合理化があるとされます。

世俗化論の限界

しかし、世俗化論は限界を伴っています。西洋のキリスト教を基にした理論であるため、イスラム主義の興隆などには対応できません。また、西洋と日本などの宗教観の違いも明らかです。たとえば、初詣や神社への参拝はキリスト教的な概念では説明しきれない現象です。つまり、世俗化論は、近代社会と宗教の関係を理解するためには有用であったものの、それに伴う文化的背景や多様な宗教の存在を十分に反映できていない部分があります。


このように、世俗化の概念は多角的かつ動的に理解されるべきであり、今後も新たな視点からの研究が期待されます。

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