世界遺産と博物館

世界遺産と博物館：遺産の理解と保護を深める

2016年のユネスコ総会で採択された「ミュージアムとコレクションの保存活用、その多様性と社会における役割に関する勧告」を受け、ユネスコは世界遺産と博物館の連携を推進する指針を示しました。これは、世界遺産の価値をより深く理解させ、その保護の重要性を認識させるために、博物館が重要な役割を果たすという考え方に基づいています。

世界遺産における博物館の役割

世界遺産条約第5条では、文化遺産や自然遺産の保護・保存に関する研修センターの設置が求められており、世界遺産の近くにガイダンス施設やビジターセンターを設けることが推奨されています。しかし、途上国では経済的な理由から施設の新規建設が難しく、複数の遺産が点在するシリアルノミネーション登録物件の場合、複数の施設を建設することは大きな負担となります。また、無形文化遺産のように開催日時が限定される祭事などは、体験することが難しいという課題もあります。

そのため、既存の博物館、資料館、美術館などを活用し、遺産の概要を周知させることが有効な手段として示唆されています。これらの施設は、世界遺産の価値を証明する出土遺物や美術工芸品などの可動文化財を展示することで、世界遺産の完全性を補完する役割も担っています。ユネスコは、遺産が所在する場所におけるサイトミュージアムの設置を推奨しており、文化遺産のデジタル化や仮想博物館、オンライン展示会なども奨励しています。

博物館設置における課題

一方で、世界遺産では景観や環境保護が求められるため、ガイダンス施設や博物館を新設する際には、その立地やデザインが問題となることがあります。特に宗教的聖地では、文化的空間が持つ精神性を損なう可能性も考慮しなければなりません。また、民俗分野における野外博物館や、自然分野におけるエコミュージアムといった半有形・半無形のものをどう取り込むかという課題や、営利事業としての企業経営の博物館、恒久性の低い個人博物館、歴史資料を保管する図書館の役割、自然遺産におけるネイチャーセンターや動物園・植物園の取り扱いなど、様々な課題が存在します。

日本における博物館の現状

日本では博物館法に基づき、博物館は「登録博物館」と「博物館相当施設」に分類されています。それらに属さない「博物館類似施設」も存在します。個人収集品を管理する個人博物館や、美術工芸品を販売する美術商の店舗など、法的保護の対象外となる施設でも重要な資料が所蔵されている場合があり、これらの施設の取り扱いが課題となっています。

国際的な連携と理念

「世界遺産と博物館」施策は、ユネスコと協力関係にある国際博物館会議（ICOM）が提唱する「文化のハブ（結節点）としての博物館」という理念にも合致しています。これは、博物館が地域文化の中心的な役割を担い、様々な文化交流や学習の場として機能することを意味しています。

世界遺産と博物館の連携は、遺産の価値を伝え、その保護を促進するための重要な取り組みです。今後も、博物館の専門性と知識を活用し、世界遺産が持つ文化的、歴史的、自然的な価値を次世代に継承していくための活動が求められます。

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