中原みすず

中原 みすず

中原みすず（なかはら みすず）は、その素顔がほとんど知られていない日本の小説家です。本名やこれまでの経歴に関する詳細は一切公表されておらず、まさに「覆面作家」というにふさわしい存在と言えるでしょう。

彼女が世に問うた作品は、今のところ小説『初恋』ただ一冊のみです。

小説『初恋』とその背景

小説『初恋』は、昭和43年（1968年）に東京で発生し、未解決のまま時効を迎えた「三億円強奪事件」を題材としています。物語は、この歴史的な犯罪の実行犯を主人公として描かれています。特に注目すべき点は、作中の主人公の名前が著者自身と同じ「中原みすず」とされていることです。この設定に加え、通常のフィクション小説にはあまり見られない前書きや後書きが作品に付されていることから、『初恋』は単なるフィクションではなく、著者の自伝的な要素を強く含んでいるのではないかと、多くの読者や関係者から指摘されています。

『初恋』が映画化された際、主人公「中原みすず」を演じた女優の宮崎あおいさんは、撮影にあたり著者本人と直接面会する機会を得ました。その後、彼女はインタビューにおいて、著者との会話を通して「（著者が三億円事件の）犯人であると確信した」と述べており、この発言は作品の謎めいた背景をさらに深めることとなりました。

作品の複雑な変遷

現在知られている小説『初恋』は、一度で完成されたものではなく、複数の段階を経て成立したと考えられています。リトルモアから2002年に出版された単行本『初恋』は、その2年前に文園社から出版された城真琴（じょう まこと）著『幻想の手記 褐色のブルース』に、加筆・修正を加えたものであるとされています。

さらに、1999年に出版された風間薫（かざま かおる）氏によるノンフィクション小説『真犯人-「三億円事件」31年目の真実』の中では、『幻想の手記 褐色のブルース』についても言及されています。同書によると、『幻想の手記 褐色のブルース』は、文園社から商業出版される以前に、坊城ミス（ぼうじょう ミス）という筆名で『記憶のカルテ 権力への挑戦〜そして完全犯罪は終わった』というタイトルのもと、限定100部で自費出版されていたと記されています。この記述が正しければ、『初恋』は少なくとも三つの異なる形、そして三つの異なる筆名（坊城ミス、城真琴、中原みすず）を経て、現在の形になったということになります。

このように、『初恋』の作品としての成り立ちそのものが、著者の謎多き素性と複雑に絡み合っており、読者に様々な憶測を呼んでいます。

著書

『初恋』 リトルモア、2002年 ISBN 978-4-898-15064-1
『初恋』（文庫版） 新潮社〈新潮文庫〉、2008年 ISBN 978-4-10-135451-4

関連項目

* 覆面作家

中原みすずという作家は、その正体のみならず、作品そのものの変遷もまた、未解決事件の謎と深く結びついた特異な存在であり続けています。

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