中大路氏道

中大路氏道：日本の製鉄業を支えた技術者

中大路氏道（なかおおじ うじみち、1872年9月16日 - 1941年10月28日）は、明治から昭和にかけて活躍した日本の工学博士であり、会社経営者です。彼は、日本の近代製鉄業の発展に大きく貢献し、特に釜石製鐵所においては、その卓越した技術力とリーダーシップを発揮しました。

生い立ちと教育

中大路氏は、賀茂県主を祖とする氏族の出身です。氏道は1872年（明治5年）9月、士族の中大路氏緝の長男として京都に生まれました。京都市の私立平安義黌を経て、1894年（明治27年）7月に第三高等中学校の第二部工科を卒業。1897年（明治30年）7月には東京帝国大学工科大学の採鉱冶金科を卒業し、技術者としての基礎を築きました。

釜石製鐵所での活躍

大学卒業後、氏道は日本で唯一の近代的な製鉄所であった岩手県の釜石鉱山田中製鉄所に入所し、技師として勤務しました。1901年には、欧米の製鉄業を視察するために約1年間をかけて欧米を周遊し、最新の技術や知識を習得しました。

1907年（明治40年）5月には、技師長に就任し、冶金技術者としてだけでなく、土木建築や機械にも精通し、自ら設計、製図、現場監督を行ったと伝えられています。1916年には、当時釜石で最大の120トン高炉（第8高炉）を設計するなど、その技術力は高く評価されていました。

1917年（大正6年）4月、田中長兵衛の個人商店だった組織が株式会社化され、田中鉱山株式会社が設立されると、氏道は取締役に就任し、経営にも参画しました。

1919年（大正8年）4月、30年以上にわたり製鉄所長を務めた横山久太郎が病気療養のため東京へ移ると、氏道が第2代所長に任命されました。同年6月には、工学博士の学位を取得し、8月には横山久太郎が社長を務めていた三陸汽船株式会社の取締役にも選任されました。

労働争議への対応

1919年11月、釜石製鐵所では創業以来未曾有の労働争議が勃発しました。足尾銅山同盟会の一派が釜石に乗り込み、労働者を扇動したことが原因でした。事態を鎮静化するため、警官隊や陸軍部隊が出動する事態となりましたが、1920年（大正9年）2月、職工融和を目指し親睦団体の真道会が発足。同年3月には氏道が所長を辞任し、東京の本店勤務となりました。

その後の活動

第一次世界大戦後の不況や1923年（大正12年）9月の関東大震災により、田中鉱山株式会社は経営難に陥り、1924年（大正13年）3月、釜石の鉱山製鉄事業一切を三井鉱山に移譲し解散しました。その後、氏道は合資会社下谷銀行の業務担当社員や流山鉄道株式会社の取締役、社長などを務めました。1931年（昭和6年）には三陸汽船の社長に就任し、鉄道開通による乗客減少に対応するため事業の縮小を行いました。

1938年（昭和13年）4月には、東北船渠鉄工株式会社を設立し、代表取締役に就任。1941年（昭和16年）5月、三陸汽船の社長を退任し、同年10月28日に69歳でこの世を去りました。

人物像

氏道は、真面目で実直な人柄であり、常に仕事第一で非常に勉強熱心であったと伝えられています。田中家が釜石の製鉄事業を手放した際、三井鉱山から協力を依頼されましたが、「二君に仕えず」として辞退し、田中家からの退職金も一切受け取らなかったというエピソードは、彼の誠実さを物語っています。

家族

妻の清は、東京米穀組合長や下谷銀行頭取を務めた千澤專助の娘であり、二代目・田中長兵衛の妹でした。氏道には子供がいなかったため、妹の息子である中大路俊安を養子に迎えました。俊安は、釜石製鐵所の第6代所長を務めた藤田俊三の息子であり、後に首都高速道路公団理事となりました。

中大路氏道は、日本の近代製鉄業の発展に貢献しただけでなく、その誠実な人柄で多くの人々に感銘を与えた人物でした。

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