中江の霊水

中江の霊水

富山県南砺市、かつての平村の一部であった東中江集落には、古くから地域の人々に大切にされてきた湧水があります。これが「中江の霊水」として知られる清らかな水の源泉です。この湧水は、昭和61年（1986年）に富山県が選定する名水百選の一つに数えられ、さらに平成元年（1989年）には旧平村（現南砺市）の指定文化財にも登録されています。地域の歴史と文化、人々の暮らしに深く根差した貴重な存在と言えるでしょう。

水神信仰と歴史

東中江集落には、遠い昔からこんこんと湧き出る泉がありました。この清らかな水は里人たちにとって恵みであり、彼らは泉のほとりに小さな祠を建て、水神様を丁重に祀り始めました。この水神様への信仰は篤く、特に集落が火事に見舞われることが少ないのは、水神様のおかげだと信じられてきました。そのため、この地には火伏せの神としても水神信仰が根付き、人々から親しみを込めて「水波廼女神社（みずはのめじんじゃ）」と呼ばれています。ただし、これは正式な神社として登録されているわけではありません。

地元に伝わる話では、かつて庄川の洪水によって水神様のご神体が流されてしまったことがあったそうです。しかし、不思議なお告げがあり、集落の人々が力を合わせて再びご神体を迎え入れたという伝承が語り継がれています。現在見られる本殿は、昭和26年（1951年）に改築されたものです。また、水神様がこの地に祀られている背景には、かつて中江集落が庄川を利用した水運の重要な拠点であったこととも関係があるのではないかと考えられています。

五箇山和紙とのつながり

中江の霊水を湛えた池は、長い間、地域の重要な産業であった五箇山和紙を作る人々にとって欠かせない場所でした。和紙の原料となる楮（こうぞ）を洗う工程でこの清らかな水が使われ、この水と水神様のご加護によって、質の高い和紙ができると信じられていました。そのため、この水神様は五箇山和紙に携わる製紙家の守り神としても崇敬されていました。五箇山和紙生産の伝統は、現在も東中江に建てられた「五ヶ山和紙の里（道の駅たいら）」で大切に受け継がれており、中江の霊水が果たした役割の大きさを今に伝えています。

地域文化の象徴

このように、中江の霊水は単なる湧水としてだけでなく、古くからの水神信仰や火伏せの願い、そして五箇山和紙という地域の伝統産業を支えてきた、生きた文化遺産とも言えます。名水百選および指定文化財への選定・指定は、この霊水が持つ豊かな自然の恵みと、それにまつわる人々の歴史、文化的な価値が認められた結果です。東中江集落において、この清らかな水は今も変わらず湧き続け、地域の人々の心のよりどころとなっています。

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