中華人民共和国の海上保安機関

中国の海上保安機関：複雑な歴史と統合への道

中国の海上保安体制は、2013年の中国海警局発足以前は、複数の機関がそれぞれ独自の権限と管轄区域を持ち、錯綜した状況でした。この状態は、米海軍大学校によって「五龍（Five Dragons）」と名付けられ、それぞれの機関の活動が連携不足に陥る要因ともなっていました。

2013年以前の「五龍」

2013年以前、中国の海上保安活動は主に以下の5つの機関によって担われていました。

1. 国家海洋局海監総隊（海監）： 排他的経済水域（EEZ）における資源保護、法執行、環境保護、科学調査などを主な任務としていました。海軍との深い連携が見られ、事実上の運用管理は海軍が行っているとの見方がありました。北海、東海、南海に3つの分隊を配置し、多数の船艇と航空機を運用していました。設立は1964年で、1983年に本格的な執法船を配備し、1998年に国土資源部の管理下に置かれました。
2. 公安部辺防管理局公安辺防海警総隊（海警）： 沿岸警備が主な任務で、中国語表記と同様に英名もChina Coast Guardと称されていました。沿岸警備業務に特化し、海監とは異なる役割を担っていました。
3. 交通運輸部海事局（海巡）： 洋上交通警察、港湾保安、海洋汚染除去、海事情報提供などが主な業務でした。「五龍」の中で唯一、中国海警局への統合再編の対象外となりました。
4. 農業部漁業局（漁政）： 漁業資源管理を主な任務としていました。違法操業の取り締まりなどを担当し、多数の漁業取締船を運用していました。
5. 海関総署緝私局（海関）： 税関の水際取締組織で、密輸阻止や港湾の取締りを担当していました。

これらの機関は、それぞれ異なる船艇を運用し、独自の活動を行っていました。重複する管轄区域や任務分担の曖昧さは、効果的な海洋管理を阻害する要因の一つとなっていました。

中国海警局の発足と統合

2013年、中国政府は「五龍」の再編計画を発表しました。この計画の中心は、国家海洋委員会を最高調整機関として設置し、海監、海警、漁政、海関を統合して国家海洋局を再編することでした。

2013年7月22日、中国海警局が正式に発足しました。これにより、中国の海上保安活動は、国家海洋局を頂点としたより一元的な体制へと移行しました。中国海警局は、洋上での取り締まりの際に「中国海警」の呼称を使用し、船体表示も統一されました。公安部の関与が強まったことも特徴です。海巡は、交通安全に特化した任務のため、統合の対象外となりました。統合後の国家海洋局は、「第2の海軍」と呼ばれるほど、その権限と影響力は大きくなりました。

各機関の装備と人員

2011年時点での各機関の保有する船艇、航空機、人員数は以下のとおりでした。

海監： 船艇280隻（うち1000トン以上21隻）、航空機9機、要員8400名
海警： 1000トン以上3隻、650トン級17隻、要員約10000名
海巡： 船艇813隻（うち1000トン以上3隻）、ヘリコプター7機、要員2000名
漁政： 船艇1382隻（15000トン級1隻、4000トン級1隻、2000トン級1隻、1000トン級7隻を含む）、要員数は不明
* 海関： 船艇212隻（うち400トン級16隻）、要員9000名

これらの数は、2013年以降、中国海警局を中心に大幅に増加しました。

尖閣諸島問題

中国海警局発足後、同局の船舶による尖閣諸島周辺での活動が活発化しました。これは、中国の海洋進出戦略と深く関連しており、領土問題や資源開発などを巡る緊張を高める要因となっています。

まとめ

中国の海上保安体制は、複数の機関が複雑に絡み合う状態から、中国海警局を中心とした一元的な体制へと変化しました。その過程で、中国の海洋進出戦略がより明確になり、周辺国との緊張関係も高まっています。今後の中国の海洋活動、そして周辺国の対応を注視していく必要があります。

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