中西昭雄

中西昭雄（なかにし てるお）は、1941年5月29日に東京都で生まれた、日本の編集者、著述家です。京都大学文学部で学び、卒業後、ジャーナリズムの世界に身を投じました。

そのキャリアは1965年に朝日新聞社への入社から始まりました。入社後は、同社が発行する有力な雑誌媒体の編集に深く関わります。『アサヒグラフ』では、時代の出来事や社会情勢を視覚的に捉えるグラフジャーナリズムの編集に携わり、『週刊朝日』では、硬派な記事からエンターテインメントまで幅広いテーマを扱う週刊誌編集の現場で経験を積みました。また、『アサヒカメラ』の編集にも名を連ねており、写真専門誌という特殊な分野にも関わっていたことがうかがえます。朝日新聞社での約15年間の勤務を通じて、中西氏は多角的な視点と編集者としての確かな手腕を培いました。

1980年に朝日新聞社を退職した後、中西氏は独自の編集活動を開始します。1983年には、現代企画室から月刊誌「ペンギン・クエスチョン」を創刊しました。この雑誌は、従来のメディアとは異なる視点やテーマを探求する場となり、中西氏自身の問題意識や関心が色濃く反映された媒体であったと考えられます。さらに、1985年には自らの編集工房「寒灯舎」を設立し、より独立した形で企画、編集、執筆活動を行うための拠点としました。

編集者としての活動と並行して、中西氏は社会的な活動にも熱心に取り組みました。1987年には「日本寄せ場学会」の設立に参画しました。この学会は、日雇い労働者が集まる寄せ場に関する研究や、そこに存在する社会問題を学術的に探求することを目的としており、中西氏の社会への関心を示す重要な活動の一つです。また、1991年には「日本の戦後責任をハッキリさせる会」の設立にも関わりました。これは、日本の過去の歴史、特に第二次世界大戦後の責任問題について、明確な議論と総括を求める運動体であり、中西氏の歴史認識や社会的な正義に対する強い意識がうかがえます。

著述家としても、中西氏は多岐にわたる分野で著作を発表しています。単著としては、著名な写真家・編集者である名取洋之助の仕事と思想を掘り下げた評伝『名取洋之助の時代』（朝日新聞社、1980年）があります。また、文学研究にも造詣が深く、ロシア文学、特にシベリアを舞台にした作品群を論じた『シベリア文学論序説』（寒灯舎、2010年）を著しています。近年では、夏目漱石の代表作の一つである『門』を手がかりに、当時の日本の社会情勢や風俗を読み解いた『漱石『門』から世相史を読む』（作品社、2024年）を刊行し、注目を集めています。これは、古典文学を単なる文学作品としてだけでなく、歴史資料として捉え直す視点を示しており、中西氏の幅広い関心と深い洞察力がうかがえる一冊です。

編著としては、特定のテーマに関する情報を収集・整理し、一冊の本としてまとめる仕事も手がけています。例えば、世界各地の都市文化を紹介するシリーズの一つとして、『イスタンブル』（パルコ出版、1994年）を編集しました。また、日本の農業や食の安全に関心を寄せ、『ルポルタージュ よい野菜 全国91産地を歩く』（日本経済新聞社、1992年）では、全国各地の野菜産地を訪ねた取材記録を編纂しています。共著としては、ジャーナリズムのあり方やメディアの社会における役割について論じた『マスコミ床屋政談』（社会評論社、1987年）に参加しており、メディア研究者や他のジャーナリストとの議論を通じて、自身のメディア論を展開しています。

中西昭雄氏は、朝日新聞社での経験を礎に、月刊誌の創刊、自身の編集工房設立、そして「日本寄せ場学会」や「日本の戦後責任をハッキリさせる会」といった社会的な活動への参画を通じて、多角的かつ精力的に活動してきました。編集者、著述家として、ジャーナリズム、社会問題、文学、歴史など、幅広い分野で独自の視点からの発信を続けており、その仕事は日本の戦後ジャーナリズム史の一断面を示すものと言えるでしょう。近年も新たな著書を刊行するなど、その知的好奇心と探求心は衰えることを知りません。

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