中馬庚

中馬庚：日本の野球を形作った男

中馬庚（ちゅうまん かなえ/ちゅうま かのえ、1870年3月10日-1932年3月21日）は、日本の教育者であり、日本の野球史において欠かすことのできない重要な人物です。アメリカ生まれのスポーツ「ベースボール」を「野球」と訳したことで知られ、野球の普及に多大な貢献を果たしました。さらに、「遊撃手」という名称の普及にも尽力するなど、日本の野球発展に大きな足跡を残しました。1970年には、その功績を称えられ、野球殿堂入りを果たしています。

薩摩から東京へ：野球との出会い

鹿児島県鹿児島市出身の中馬は、幼少期を今藤姓で過ごした後、養子縁組により中馬姓となります。三州義塾卒業後、第一高等中学校に進学。在学中は二塁手として活躍し、野球への情熱を深めていきました。1893年、同校卒業を記念した「ベースボール部史」の執筆を依頼されたことが、彼の人生を大きく変える転換点となります。

当時、ベースボールは「底球」などと呼ばれていましたが、他の球技と区別しにくいという問題がありました。中馬は、この問題を解決すべく新しい訳語の必要性を感じていました。そして1894年秋、「Ball in the field」に着目し、「野球」という訳語を考案。野原で行う球技であることから「野球」と名付けました。この訳語は、同年10月刊行の『第一高等学校野球部史』で初めて発表され、後に広く定着することとなります。なお、中馬が「野球」の訳語を考案する4年前には、俳人の正岡子規が自身の俳号に「野球」を用いていたというエピソードも興味深い点です。

第一高等中学校卒業後、中馬は東京帝国大学（現・東京大学）に進学。1897年には一般向けの野球専門書『野球』を出版し、「野球」という訳語を一般に広めることに貢献しました。この著作は、日本初の野球専門書として、日本の野球界に大きな影響を与えました。大学卒業後、兵役を経て鹿児島に戻り、教職に就きます。

教育者としての生涯

鹿児島での教職生活の後、中馬は新潟県や秋田県、徳島県など各地の中学校で校長を歴任。教育者として多くの生徒を指導しました。1917年に教職を退いた後は、浪速銀行に勤務。1925年に定年退職後は、大阪府豊中市で釣り堀を経営していたといいます。1932年、62歳で生涯を閉じました。

「野球」という名付け親：その功績

中馬の「野球」という訳語の考案は、日本の野球界に大きな影響を与えました。それまでの「底球」など曖昧な呼び方から、明確で分かりやすい名称が定着したことで、野球の普及が大きく促進されたのです。また、彼は「ショートストップ」を「遊撃手」と訳し、その役割を「戦列で時期を見て待機し、動き回ってあちこちを固める“遊軍”のようだ」と解説したことで、「遊撃手」という名称が定着するきっかけを作りました。

彼の功績は、単なる訳語の考案にとどまりません。日本の野球文化の形成に大きく貢献した人物として、中馬庚は日本の野球史に名を残す存在なのです。1970年の野球殿堂入りは、彼の生涯と功績を後世に伝える、大きな証となっています。2020年には、ベースボールを「野球」と和訳して125周年を記念する試合が開催されるなど、現在でもその功績は高く評価されています。彼の残した言葉や行動は、現代の野球界にも通じる、普遍的な価値を有していると言えるでしょう。

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