丸山晩霞

丸山晩霞：日本の水彩画壇を彩った巨匠

丸山晩霞（まるやま ばんか、1867年6月5日-1942年3月4日）は、日本の水彩画家として知られています。長野県東御市出身の彼は、日本の水彩画発展に大きく貢献した人物であり、その生涯は数々の出会いと交流、そして創作活動によって彩られています。本稿では、晩霞の生涯と作品、そしてその功績について詳しく探ります。

黎明期と海外への飛躍

晩霞は1888年、彰技堂に入門し、明治美術会展に出品するなど、若い頃から絵画への情熱を燃やしていました。1895年、群馬県で出会った吉田博の水彩画に感銘を受け、以降彼の画風は晩霞に大きな影響を与えます。1898年には吉田博と共に日本アルプス写生旅行を行い、飛騨地方まで足を延ばすなど、自然への深い愛情と観察眼を養いました。

1899年には三宅克己と交流を深め、彼の勧めもあって1900年、渡米を果たします。鹿子木孟郎、満谷国四郎、河合新蔵、そして先に渡米していた吉田博、中川八郎らと共にボストンアートクラブで「日本人水彩画家6人展」を開催。この展覧会は大成功を収め、プロビデンスやワシントンD.C.でも開催されるなど、海外での評価も確立しました。その後、ヨーロッパを巡り、1901年に帰国しました。

国内での活躍と画風の変遷

帰国後、晩霞は「太平洋画会」の創立に加わり、小諸義塾で水彩画教師を務めるなど、教育活動にも携わりました。島崎藤村とも親交を深め、その交流は晩霞の創作活動にも影響を与えたと考えられます。1907年には日本水彩画会研究所を設立、文展に出品するなど、日本の美術界で活躍しました。1909年には、絹本に水彩で描いた作品を「和装水彩」として発表、独自の画風を確立していきます。

1911年から1912年には再びヨーロッパに渡り、滞在中に大下藤次郎が急逝するという悲劇に見舞われます。1913年には日本水彩画会の創立に参画し、評議員として活動。その後も日本各地で講習会や指導を行い、水彩画の普及に尽力しました。1923年の関東大震災の際には、被災者救済を目的として中国、東南アジア、インドを旅行しました。

晩霞の画風は、初期の吉田博や三宅克己の影響を受けたものから、1911年の欧州旅行以後のもの、そして1920年代以降の晩年のものへと、大きく変化を遂げました。「和装水彩」と呼ばれる、掛け軸や屏風に表装された作品群も彼の代表作として知られています。晩年は、画風に関して不評だった時期もあったと伝えられていますが、没後出版された遺稿集「水彩画家丸山晩霞」には多くの美術関係者が寄稿しており、その存在の大きさが改めて示されています。

文化人としての顔と晩年

晩霞は、水彩画家としての活動以外にも、俳句の選者として活躍するなど、多様な才能を持っていました。自らを「田園画家」と称し、郷里の風景をこよなく愛した彼は、地元祢津村の文化振興にも貢献しました。彼の生家裏山には墓があり、「水彩画家丸山晩霞　ここに眠る」と刻まれています。アトリエ「羽衣荘」には島崎藤村の碑文が残されています。

高山植物の蒐集家としても知られており、世界中から集めた石楠花を育てていたことは有名です。晩霞の多様な才能と豊かな人間性は、彼の絵画作品にも反映されていると言えるでしょう。1942年、76歳で逝去。没後も、彼の功績は高く評価されており、2006年には東御市に「丸山晩霞記念館」が開館するなど、その名は現在も広く知られています。

モデル問題への関与

明治37年（1904年）、島崎藤村が発表した小説「水彩画家」について、晩霞はモデル問題に関わった人物として知られています。この小説の主人公が水彩画家であったことをめぐって、晩霞は藤村に抗議の手紙を送ったのです。この一件は、日本の小説界におけるモデル問題の初期の事例として注目されています。

参考文献

『水彩画家丸山晩霞』 小山周次ら 日本水彩画会 1942
丸山晩霞(小山周二) 『美術家伝 信州人物記』樋口寛編 信濃毎日新聞社、1950
『国文学解釈と鑑賞臨時増刊 現代作品の造形とモデル』長谷川泉編、1984年11月
『風景画の巨匠 吉田博と丸山晩霞』（2010年 丸山晩霞記念館）
『山岳に焦がれた男たち』（2011年 丸山晩霞記念館）
『水彩画家 丸山晩霞展』（2012年 丸山晩霞記念館）

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