丹羽正伯

丹羽正伯：江戸中期を代表する本草学者

丹羽正伯（にわ しょうはく）は、元禄4年（1691年）に伊勢国松阪（現在の三重県松阪市）で生まれました。医者を家業とする家に育ち、京都で稲生若水に本草学を学びました。本草学とは、薬となる植物や動物、鉱物などの効能や性質を研究する学問です。

幕府の採薬使としての活躍

江戸幕府8代将軍・徳川吉宗は、財政健全化の一環として、薬草の国産化を進めようとしていました。そこで、本草学の知識を持つ丹羽正伯は、享保5年（1720年）に幕府の採薬使に任じられ、野呂元丈や植村政勝らと共に、薬草の調査・採集のため、箱根、富士山、東北地方など各地を巡りました。採集された薬草は、幕府の薬草園で栽培が試みられました。

享保7年（1722年）には幕府医師として召し抱えられ、下総国（現在の千葉県）に設けられた広大な薬草園の運営と管理を任されました。この薬草園は、現在の千葉県船橋市薬円台の地名の由来となり、当時は「正伯新田」とも呼ばれていました。

庶民向け医学書と本草図鑑の編纂

享保12年（1727年）には、庶民向けの治療法と薬草・薬種の解説書『普救類方』が、丹羽正伯と幕府医師・林良適の共同編集で刊行されました。この書には、狩野派の絵師による挿絵も含まれています。

また、師の稲生若水から引き継いだ本草学書『庶物類纂』を参考に、日本全国の動植物や鉱物を網羅的に調査した『諸国産物帳』を編纂しました。この図鑑作成のため、正伯は全国の諸藩に、領内の産物を調査して報告するように指示しました。各藩は苦労して台帳を作成しましたが、正伯はさらに詳細な記述や絵を要求し、諸藩は再度対応に追われたといいます。

『諸国産物帳』は、元文4年（1739年）に完成しましたが、幕府からの正式な命令で作成されたものではなかったとする説もあります。完成した図鑑の原本は失われましたが、各藩に残された控えにより、当時の日本の動植物の分布や利用状況を知ることができます。この図鑑は、日本初の国内を網羅した動植物図鑑とも言え、大変貴重な資料です。

晩年と顕彰

丹羽正伯は、宝暦6年（1756年）に江戸で亡くなりました。その功績を称え、薬園台村の人々によって供養碑が建てられました。

丹羽正伯の功績

丹羽正伯は、幕府の採薬使として薬草の国産化を推進し、薬草園の運営にも尽力しました。また、医学書や本草図鑑の編纂を通じて、庶民の医療知識の向上や本草学の発展に大きく貢献しました。彼の残した業績は、現代においても高く評価されています。

関連事項

和薬種改会所
薬園台

もう一度検索