久保田金僊

久保田金僊：戦場と商業社会を繋いだ日本画家

久保田金僊（くぼた きんせん、1875年～1954年）は、明治から昭和時代にかけて活躍した日本画家です。京都で日本画家の父・久保田米僊を師として絵画の道を歩み始めました。京都府画学校で四条派を学び、その後上京。若くして国民新聞の従軍記者として日清戦争に従軍し、最前線の様子を絵画で克明に記録するという貴重な経験をしました。

彼の才能は早くから開花し、数々の絵画共進会で入賞を果たしています。日本青年絵画協会や日本絵画協会の展覧会に出品し、高い評価を受けました。代表作の一つに「敗荷雙鴨」や「敦盛吸笛」、「海嘯後光景」、「農夫摘蔬図」、「天女来降」、「夏の暮」などがあります。これらの作品は、彼の繊細な描写力と確かな画力を示すものです。

日清戦争での経験の後も、久保田金僊は絵筆を握り続けました。日露戦争では第三軍に従軍し、再び戦場の情景を絵画に託しました。その後、更なる研鑽のため、単身渡米。シアトルで松坂屋社長との出会いを通じて、松坂屋宣伝部に勤務。宣伝部長として長年活躍しました。商業の世界でも才能を開花させ、55歳までその職務に励みました。

彼の活動は絵画制作だけにとどまりません。文展への出品や、舞台装置のデザイン、時代考証などにも携わっており、多方面で才能を発揮しました。幅広い知識と経験を活かし、時代を彩る様々な場面で活躍したことが分かります。

晩年は直腸癌と闘病する日々が続きましたが、1954年、東京都中野区の自宅で老衰のため亡くなりました。

彼の作品は、戦場の激しさ、自然の壮大さ、そして人々の営みなど、様々な側面を繊細に描き出しています。また、商業デザインという異なる分野での成功は、彼の多様な才能と適応力の高さを物語っています。久保田金僊は、画家としての高い技量に加え、時代状況に対応する柔軟性と社会への貢献意識を持った、稀有な存在であったと言えるでしょう。

主な作品:

「長生新浦島」口絵 (坪内逍遥作『実業之日本社』大正11年(1922年))　など

参考文献:

日本美術院百年史編集室編　『日本美術院百年史』一巻上（図版編）　日本美術院、1989年
* 山田奈々子　『木版口絵総覧』　文生書院、2005年

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