久保貞次郎

久保貞次郎：美術評論家、教育者、そしてパトロン

久保貞次郎（1909-1996）は、20世紀日本の美術界に多大な影響を与えた人物です。美術評論家として活躍する一方、小中学生を対象とした創造主義美術教育運動の指導者、跡見学園短期大学学長、町田市立国際版画美術館初代館長など、多彩な顔を持つ稀有な存在でした。その活動は、評論活動にとどまらず、美術品の収集、芸術家への支援、教育者としての貢献と多岐に渡り、日本の美術史における重要な役割を果たしています。

裕福な家庭環境と欧米への憧憬

栃木県足利町に生まれた久保は、金物店を営む家庭の次男として誕生しました。幼少期に母親を亡くした彼は、継母と姉に育てられました。成蹊高等学校時代には、欧米文化に強い憧れを抱き、エスペラント語の学習に励み、やがて東京帝国大学文学部教育学科を卒業しました。大学卒業後、大日本聯合青年団社会教育研究生となります。この頃、九州への派遣中に現代美術家、瑛九と出会い、現代美術への関心を深めます。

久保家への婿入りと莫大な遺産

1933年、久保は資産家の久保佳代子と結婚、久保姓となります。義父は生前、芸術愛好家として知られており、その遺産には青木繁の絵画なども含まれていました。婿入り後、大学院に進学し、日米学生会議に参加するため渡米するなど、国際的な視野を広げます。その後、義祖父の遺産を相続、莫大な富を手にします。

美術教育への貢献と芸術家支援

相続した財産を元に、久保は真岡小学校に久保講堂を建設し、児童画の公開審査会を開催するなど、美術教育に貢献しました。また、自ら美術賞である久保賞を設立し、瑛九ら著名な芸術家を審査員に迎えました。さらに、国際親善を目的とした欧米旅行では、フランク・ロイド・ライトや国吉康雄らとも交流、多くの美術品や美術書を購入し、コレクションを形成していきます。戦後には、デモクラート美術協会を支援し、創造美育協会を設立するなど、積極的に現代美術運動に関わりました。

小コレクター運動と「久保アトリエ」

1950年代からは「小コレクター運動」を提唱、無名の作家の作品を購入する運動を展開します。自宅米蔵を改修した「久保アトリエ」は、多くの芸術家の交流拠点となりました。晩年には、ヴェネツィア・ビエンナーレの日本代表も務めるなど、国際的な舞台でも活躍します。跡見学園短期大学学長、町田市立国際版画美術館初代館長などの要職も歴任しました。

後世への遺産

久保は、数多くの美術評論や美術教育に関する著作を残し、没後もその功績は高く評価されています。町田市立国際版画美術館では「久保貞次郎と芸術家展」が開催され、その活動が回顧されました。久保講堂は国の登録有形文化財に指定され、真岡市には「久保コレクション」が寄贈され、久保記念観光文化交流館で展示されています。久保貞次郎は、美術評論家、教育者、そして惜しみない支援を行ったパトロンとして、日本の美術史に大きな足跡を残したと言えるでしょう。彼の活動は、現代の美術界にも多大な影響を与え続けています。

主な著書

児童美術
児童画の見方
子どもの創造力
児童画の世界
美術に近づく道
児童画と教師
版画収集の魅力：コレクター入門
久保貞次郎美術の世界（シリーズ）

訳書

芸術家としての子供達
チィゼックの美術教育

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