久永勝一郎

久永 勝一郎

久永 勝一郎（ひさなが かついちろう、1931年 - ）は、日本のフィギュアスケート界において多岐にわたる活動を展開した人物です。選手として競技に臨み、引退後は実業家として成功を収める傍ら、フィギュアスケートの審判員としても活動しました。さらに、日本スケート連盟の会長や国際スケート連盟（ISU）の副会長といった、スケート界の主要なポストを歴任し、その発展に尽力しました。しかし、その後半のキャリアは、不祥事による逮捕と有罪判決という、大きな試練に直面することとなりました。

選手としての歩み

久永は鹿児島県鹿児島市に生まれました。若い頃からフィギュアスケートに取り組み、男子シングルの選手として競技会に出場しました。選手時代には、1952年の全日本ジュニア選手権で3位に入賞するなど、国内で一定の競技成績を残しています。学業においては、明治大学商学部で学び、1955年に卒業しています。

実業家としての成功とスケート界への貢献

大学卒業後、久永は実業界へと進み、外資系の製薬会社に就職しました。ビジネスマンとして多忙な日々を送る中でも、フィギュアスケートとの関わりは途絶えることはありませんでした。日本スケート連盟に所属し、国際フィギュアスケート審判員として活動を開始します。国際審判員は、世界選手権やオリンピックなど、主要な国際大会で選手の演技を採点する重要な役割を担います。久永は審判員として、国際的な舞台で日本のフィギュアスケートの地位向上に貢献しました。

また、彼は日本のオリンピック選手団の役員としても貢献しています。1988年にカナダで開催されたカルガリー冬季オリンピックでは、日本選手団の監督としてチームを率いました。続く1992年のフランス、アルベールビル冬季オリンピックでは、日本選手団の本部役員を務めるなど、選手のサポートや団の運営に深く関わりました。これらの経験を通じて、久永は日本のスポーツ界、特に冬季競技における指導者・運営者としての手腕を発揮していきました。

日本スケート界、そして国際舞台でのリーダーシップ

1998年は、久永のキャリアにおける大きな転換期でした。長年勤めた製薬会社を定年退職し、新たな事業として日本メディセル株式会社を設立、代表取締役に就任しました。そして同年、スケート界の要職に立て続けに就任します。

1998年6月1日、国際スケート連盟（ISU）の副会長選挙で当選し、日本人としては初めてISUの副会長に就任しました。これは、アジアにおけるフィギュアスケートの台頭や、久永自身の国際的な審判員・役員としての経験が評価された結果と言えます。ISU副会長は、会長を補佐し、連盟の運営やフィギュアスケート、スピードスケートなどの国際的な競技規則の策定、大会運営など、幅広い業務に関わる重要なポストです。同年7月1日には、日本スケート連盟の会長にも就任し、日本のスケート界全体を統括する立場となりました。国内外の主要な組織でリーダーシップを発揮する存在となったのです。

ISU副会長については、2002年の再選を目指しましたが、これは叶いませんでした。日本スケート連盟会長についても、2004年にその職を辞任しています。

不正経理事件とその後の影響

連盟会長職を辞した後、久永は深刻な事態に直面します。2006年10月、彼は日本スケート連盟の元専務理事やイベント会社の関係者らと共に、背任の疑いで逮捕されました。この事件は、海外から審判員や大会役員を招いたかのように装い、関連するイベント会社を通じて経費を水増し請求させ、日本スケート連盟に損害を与えたとされるものでした。連盟が被った損害額は約580万円に上ると報じられました。

この不正経理事件に関して、久永は背任罪で起訴されました。2007年3月に行われた裁判で、彼は有罪となり、懲役3年、執行猶予5年の判決が下されました。この判決は、長年にわたりスケート界に貢献してきた彼のキャリアに大きな傷を残すこととなりました。

有罪が確定したことを受け、久永はこれまでの栄誉を失います。国際スケート連盟は、彼が保持していた名誉副会長の称号を剥奪しました。また、1999年春の叙勲で受章した藍綬褒章についても、2007年9月11日をもって返上しました。これは、国民からの信頼を失ったことへのけじめと受け止められています。

選手から実業家、そして日本のスケート界を代表し、国際舞台でも活躍した久永勝一郎氏の生涯は、その輝かしい功績の裏で、不正事件による失墜という、複雑な側面を持つものとなりました。

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