九三式水中聴音機

九三式水中聴音機：日本海軍の潜水艦探知技術

九三式水中聴音機は、大日本帝国海軍が開発した艦艇搭載用の受動式ソナーです。本機は、潜水艦を中心とした敵艦艇を探知するために開発され、太平洋戦争において重要な役割を果たしました。

開発の経緯

日本海軍は第一次世界大戦中、イギリス海軍の水中聴音機を初めて目撃しました。その後、アメリカやイギリスから水中聴音機を輸入し、運用試験を重ねました。しかし、国産化には技術的な課題が多く、満足のいく性能のものは得られませんでした。

そこで、アメリカやドイツの技術を導入することになり、アメリカのサブマリンシグナル社製の装置や、ドイツのエレクトロアクスティック社製の保式水中聴音機を輸入して研究開発に役立てました。これらの技術を基に、1933年（昭和8年）に九三式水中聴音機が制式採用されました。ドイツ人技術者からの指導も開発に大きく貢献したとされています。

装置概要

九三式水中聴音機は、以下の主要な構成要素から成り立っています。

捕音器: 水中の音波を電気信号に変換します。可動線輪型捕音器を16個使用し、艦首付近の艦底外板に円形に配置されていました。初期はドイツ製のものを模倣していましたが、材料の不足などを背景に、国産化のための改良が戦争中に進められました。永久磁石にはKS鋼、振動板には当初はニッケル青銅、後にアルミニウム青銅、そしてマンガン青銅が用いられました。
電気整相機: 音源の方位を測定します。複数の捕音器からの信号の到達時間差を利用し、音源の方位を特定します。直流モーターのコミュテーターのような構造で、各捕音器からの信号に遅延量を与え、最大出力が得られるように調整することで方位を決定します。方位情報は、艦橋や探信室に電気的に送られました。
低周波増幅器: 捕音器から得られた微弱な電気信号を増幅します。3本の真空管を用いた抵抗結合型増幅器で、音量調節機能も備えていました。
受聴器: 増幅された電気信号を音に変換して聴取します。海軍制式のテー式一號受聴器が使用されました。
濾波器: 不要な雑音を低減し、音源の音色判別や聴測精度向上に役立ちました。


九三式水中聴音機は最大感度方式を採用していました。これは、複数の捕音器に到達する音波の時間差を利用して音源の方位を特定する方式です。

探知性能

九三式水中聴音機の探知性能は、気象条件や海況、艦艇の状況などによって大きく変動しました。潜水艦に搭載された場合、単独の敵艦なら10,000m、複数なら30,000m先からの探知が可能とされました。測角精度は約5度でしたが、2度程度への向上が要求されていました。しかし、実際には雑音の影響で、確実に探知できる距離は1,000m程度でした。潜水艦は襲撃時の速度が低いため、水上艦艇に比べて聴音機の性能を比較的発揮しやすいという特徴がありました。

探知能力の向上

太平洋戦争中は、装置自体の大幅な改良は行われず、主に雑音抑制による探知能力の向上に努めました。海防艦や駆潜艇の機関への防振ゴムの装着はその代表例です。防振ゴムの装着によって、可聴距離が大幅に向上しました。

まとめ

九三式水中聴音機は、当時の技術水準において、潜水艦探知に重要な役割を果たした装置でした。しかし、雑音対策や測角精度の向上といった課題も残っていました。戦争後期には、防振ゴムの導入などによって探知性能の向上が図られましたが、技術的な限界も明らかになったと言えるでしょう。

参考文献

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海軍水雷史刊行会 編『海軍水雷史』海軍水雷史刊行会、1979年
田丸直吉『日本海軍エレクトロニクス秘史 兵どもの夢の跡』原書房、1979年
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木俣滋郎『小艦艇入門 海軍を支えた小艦徹底研究』光人社、2007年
隈部五夫『海防艦激闘記 - 護衛艦艇の切り札海防艦の発達変遷と全貌 -』潮書房光人社、2016年
『海軍電気技術史 第6部』名和武ほか、技術研究本部、1969年
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* 『取扱説明書　九三式水中聴音機二型甲乙潜水艦用』海軍技術研究所音響研究部

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