九室会

九室会：戦時下の前衛絵画運動

九室会は、1938年（昭和13年）に二科会の中に生まれた、前衛的な絵画の研究グループです。吉原治良をはじめとする6名が中心となり、二科会の重鎮であった藤田嗣治と東郷青児を顧問に迎えました。しかし、戦争が激化するにつれて前衛的な表現への締め付けが強まり、1943年（昭和18年）の第3回展を最後に活動を停止しました。

結成の背景と活動

九室会が生まれるきっかけとなったのは、二科展における第九室の存在でした。1933年（昭和8年）以降、二科展では、より実験的で前衛的な作品を展示する場所として第九室が設けられ、そこには吉原治良や峰岸義一といった、新しい表現を追求する画家たちが集まっていました。彼らは、既存の美術の枠組みにとらわれず、自由な発想で作品を生み出そうとしていました。そうした第九室の常連であった吉原治良、峰岸義一らの呼びかけにより、1938年9月に九室会は結成されました。

1939年（昭和14年）5月には、東京の日本橋で第1回展を開催し、その活動を本格的にスタートさせました。1940年（昭和15年）には会員数が45名に達し、最盛期を迎えました。しかし、時代は戦争へと向かい、美術界にもその影響が及び始めます。

作品の傾向と時代の変化

九室会の作品は、吉原や山口長男らが手がけた、時局を直接的に表現することを避けた抽象的・シュルレアリスム的な作品が中心でした。彼らは、戦争という現実から距離を置き、内面世界や純粋な造形美を追求しようとしました。しかし、一方で、難波香久三のように、時局を直接的に反映した作品を手がける画家もいました。このように、九室会には多様な表現が存在していました。

1940年になると、前衛的な姿勢は徐々に影を潜め、時局を反映した戦時色の強い表現が主流となっていきました。1941年9月に銀座三越で開催された「航空美術展」では、松本竣介が《航空兵群像》を出品するなど、時代の変化が作品にも如実に表れるようになりました。

短命ながらも重要な足跡

九室会は、その活動期間は短かったものの、戦後の美術界を代表する多くの画家たちが一時的に集結し、戦時下における前衛表現の多様なあり方を示したという点で、非常に重要な役割を果たしました。彼らの試みは、戦後の日本の美術界に大きな影響を与え、新しい表現の可能性を切り開く原動力となりました。

主な会員

峰岸義一
吉原治良
山本敬輔
山口長男
広幡憲
高橋迪章
斎藤義重
桂ユキ子（桂ゆき）
難波香久三
石丸一

顧問

藤田嗣治
東郷青児

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