九月に降る風

九月に降る風：青春の季節風と、過ぎ去りゆく時間

2008年、台湾で公開され、日本でも高い評価を得た映画『九月に降る風』。原題は『九降風』。これは、台湾の新竹市で旧暦9月に吹く季節風のことであり、卒業や入学のシーズンと重なることから、青春の旅立ちと別れを象徴する言葉として広く知られています。

監督はトム・リン（林書宇）。本作は、監督自身の青春時代を投影した自伝的な作品であり、その瑞々しい感性とノスタルジックな雰囲気は、観る者の心を深く揺さぶります。1996年の夏、新竹市を舞台に物語は展開します。

主人公は、高校3年生のイェンをはじめとする7人の高校生たち。彼らは、常に騒動を起こしては教官室に呼び出される問題児グループですが、台湾プロ野球チーム・時報イーグルスのスター選手、廖敏雄（リャオ・ミンシュン）への熱狂的な共通の趣味を持っていました。

彼らの日常は、友情、恋愛、そして葛藤で彩られています。イェンの恋人であるブラスバンド部のユン、7人を心配しブラスバンド部へ勧誘するペイシンなど、様々な人間関係が複雑に絡み合い、青春の機微を繊細に描き出しています。

背景には、時報イーグルスの八百長疑惑という社会問題が影を落とし、彼らの青春時代は、時代の波にも揺さぶられていきます。

映画には、台湾プロ野球界のスーパースター廖敏雄が本人役で出演しているほか、当時台湾で流行していた日本のサブカルチャー、飯島愛のAVなども登場。これらを通して、90年代後半の台湾の社会情勢や文化の一端も垣間見ることができます。

キャストには、リディアン・ヴォーン、チャン・チエ、ジェニファー・チュウなど、台湾映画界を代表する若手俳優たちが名を連ねています。彼らの自然体な演技が、登場人物たちの等身大の青春を生き生きと表現しています。

また、エンディングテーマには、台湾の人気歌手張雨生（チャン・ユーシェン）の「我期待」が使用されています。張雨生は、この映画の舞台となった1997年に交通事故で亡くなっており、彼の歌声がこの映画にさらに切ない余韻を与えています。

『九月に降る風』は、単なる青春映画の枠を超え、時代背景や社会問題を織り込みながら、普遍的なテーマである友情、恋愛、別れを描き出した、深く感動的な作品です。台湾の青春映画、そして青春そのものを深く知りたい方、ぜひ一度鑑賞することをお勧めします。

映画は、台北映画祭、上海国際映画祭、金馬奨など数々の映画賞を受賞しており、その高い芸術性と完成度が認められています。日本でもDVDが発売され、多くの人に愛されています。 映画を観終わった後には、過ぎ去った青春時代を懐かしむとともに、未来への希望を感じることができるでしょう。

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