乾雅人 (演出家)

乾雅人の軌跡

乾雅人（いぬい まさと）は、1964年10月10日、北海道釧路市に生まれました。幼少期は父親の転勤で各地を転々としましたが、中学・高校時代は岐阜県で過ごしました。高校時代、進路相談で教師から「テレビディレクターの才能はない」と告げられましたが、映像制作への夢を諦めず、立教大学文学部へ進学し上京。

大学在学中からテレビ業界でのアルバイトを始め、大学中退後、フリーランスのアシスタントディレクターとしてキャリアをスタートさせました。『なうNOWスタジオ』、『象印クイズ ヒントでピント』などの番組を経て、『クイズ100人に聞きました』を担当。その後、『筋肉番付』でスポーツ番組の世界に入り、『SASUKE』、『K-1』、『DOORS』といった人気番組の演出を手がけました。2004年には、制作会社フォルコムを設立し、代表取締役社長に就任。2012年からは『SASUKE』の総合演出を務めています。

『SASUKE』の生みの親

乾氏が総合演出を務める『SASUKE』は、単なるスポーツ競技番組の枠を超え、多くの視聴者を魅了し続けています。番組のルーツは、『筋肉番付』内の企画「ハンドウォーク」にあります。当時のプロデューサーから「忍者みたいな企画を」と依頼されたことがきっかけとなり、乾氏は番組の世界観を固めることから着手しました。

「遺跡のある草原」「化学工場の内部」「奈落」「綱登りのタワー」という4つの「塊」から構成されるステージは、まるで物語のようなコンセプトで構築されており、各エリアは、乾氏と放送作家たちがアイデアを出し合い、試行錯誤を重ねて生み出されました。例えば、1st STAGEの「そり立つ壁」は、東京大学理工学部出身のADが計算し、図面を作成。実際に日本体育大学の学生を起用したテストを経て、完成しました。

乾氏自身も、番組の前説や編集を担当。番組で放送できなかった出場者の映像をDVDにまとめ、全選手に配布するなど、出演者への細やかな配慮も欠かしません。また、住んでいるマンションのカーテンや喫茶店の電球など、日常の何気ないものからエリアのアイデアを得ることもあります。

出場者との人間ドラマ

『SASUKE』は、単に出場者がエリアに挑戦する様子を映すだけでなく、彼らの人間模様を描くことも重視しています。そのきっかけとなったのは、番組に深くのめり込み、自宅にエリアを再現するほどSASUKEに情熱を注いだ山田勝己の存在でした。3rd STAGEの名物エリア「クリフハンガー」は、山田の練習風景から着想を得て製作されました。

また、レスリングでオリンピックを目指すも、先天性の弱視で夢を断念した秋山和彦との出会いも、乾氏にとって大きな出来事でした。秋山は、ハンデを言い訳にせず挑戦し続ける姿は、多くの視聴者に感動を与えました。乾氏は、弱視を公表することをためらう秋山を説得し、番組内でその事実を明かしました。秋山が完全制覇を成し遂げたことは、番組の伝説として語り継がれています。

さらに、初期から出場しているケイン・コスギも、番組を象徴する存在です。ケインは、一度SASUKEに専念するために『スポーツマンNo.1決定戦』を諦め、トレーニングを重ねていました。第8回大会では、FINAL STAGEで雨天に見舞われる中、日体大生から借りたスパイクを履いて挑戦しました。20年ぶりに復帰した第40回記念大会では、見事1st STAGEをクリアし、会場を沸かせました。

乾氏は、出場者たちを単なるアスリートとしてではなく、それぞれの人生を背負った人間として捉え、彼らの挑戦を全力で応援し、その姿を丁寧に描くことで、番組に深みを与えています。

その他の活動と人物像

乾氏は、『SASUKE』以外にも、『世界卓球』などのスポーツ番組の演出を手掛けています。また、2024年7月からは、マギー（ジョビジョバ）と菅剛史と共にYouTubeラジオ「小さいおっさんの会」を開設し、新たな分野にも挑戦しています。

性格は「定型的なテレビマン」と自称していますが、出演者たちを鼓舞したり、出産祝いを贈ったりするなど、細やかな気配りを見せる一面も持ち合わせています。趣味はサウナと魚釣り。

乾雅人は、テレビ番組の演出を通して、多くの人に感動と勇気を与え続けています。彼の番組作りへの情熱と、人間味あふれる人柄は、これからも多くの人々を魅了していくでしょう。

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