亀裂のなか

『亀裂のなか』

概要

『亀裂のなか』は、1962年に発表された梶山季之の推理小説です。経済部の記者が、密室で自殺した証券マンの事件を追うというストーリーで、緻密な構成と、当時の社会情勢を反映した内容が特徴です。

あらすじ

物語は、経済雑誌の記者である蓮井純が、新聞記事で同級生がガス自殺したという記事を目にするところから始まります。記事によると、死んだのは証券会社に勤める国米英作という人物。しかし、蓮井は、国米が大阪で所帯を持っていると聞いていたため、記事の内容に不信感を抱きます。

独自に調査を進めるうちに、死んだ男は国米英作を騙る別人である事が判明。蓮井は、警察と共に事件の真相を追う事になります。事件の裏には、証券業界の不正が隠されており、蓮井は、複雑に絡み合う人間関係と、事件の核心に迫っていく事になります。

登場人物

蓮井純（はすい じゅん）：主人公。経済雑誌の記者。事件の真相を追ううちに、証券業界の闇に足を踏み入れていく。
国米英作（こくまい えいさく）と名乗る男：アパートの自室でガス自殺したとされる人物。しかし、実際には同級生を騙っていた。
国米英作（本物）：蓮井の同級生。大阪で生活していた。事件に巻き込まれる。
桑田宗一郎（くわた そういちろう）：蓮井と国米の同級生。銀行員として働いている。
管理課長：証券会社の株式部管理課長。株券の紛失に気付き、事件に関わる。
和田順之助（わだ じゅんのすけ）：証券会社の人事部長。国米と名乗る男の上司。事件に関わる重要な人物。
殿岡功（とのおか いさお）：探偵会社の社員。急に会社を辞めた。
木下杢吉（きのした もくきち）：探偵会社の社長。片目が義眼。
* 南警部：所轄の捜査係長。国米の事件の担当者。

提示される謎

事件の最大の謎は、密室状況での自殺と、人物の入れ替わりです。どのようにして密室が作られたのか、なぜ同級生を騙る必要があったのか。これらの謎が複雑に絡み合い、読者を物語に引き込みます。

事件現場

事件現場は、テープで内張された密室状態のアパートの一室です。室内ではガスのチューブに切り込みがあり、一酸化炭素中毒による自殺と判断されました。しかし、死んだのは証券会社に勤務する営業マンであり、主人公の同級生の名前を騙っていた事が判明します。同級生本人は、大阪で健在でした。

事件当日、被害者は夜8時に帰宅。午後10時頃には、視覚障害のあるマッサージ師が部屋を訪ねますが、応答はありませんでした。この状況から、密室殺人の可能性も浮上します。

特記事項

本作では、電子化以前の証券取引の様子が描かれています。顧客に「預かり証」を渡し、有価証券は証券会社が「保護預り」として保管するという、当時の慣習が詳細に描かれています。また、題名の「亀裂」は、ガスチューブの亀裂と、証券業界内部の不正行為という二重の意味を持っています。

発表

『亀裂のなか』は、1962年10月に『別冊小説新潮』に連載されました。その後、単行本および文庫版が河出書房から出版されています。本作は、梶山季之の推理小説としては初期の作品にあたります。

脚注

本作は、経済小説としての側面も持ち合わせており、当時の証券業界の裏側を描いています。ミステリーとしての面白さはもちろん、社会派小説としての側面も持っているのが、本作の魅力です。

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