事務弁護士

事務弁護士：法廷を支える法律専門職

事務弁護士は、イギリスを中心としたコモン・ロー諸国で活躍する法律専門職です。法廷での弁論活動は行わず、法廷外での法律事務全般を担う役割を担っています。日本における弁護士とは異なり、多くの国では法廷弁護士と事務弁護士という二つの職種が明確に区分されています。

イギリスにおける事務弁護士制度

イングランドとウェールズでは、かつてはソリシター、アトーニー、プロクターの3種類が存在しましたが、現在はソリシターのみとなっています。歴史的には、法廷弁論以外のあらゆる法律事務を取り扱ってきました。軽微な刑事事件や少額訴訟では、事務弁護士が主要な役割を担っていました。

伝統的には、法廷での弁論は法廷弁護士（バリスター）が行い、事務弁護士は彼らに業務を委任する形でした。しかし近年では、高度な資格を持つ「ソリシター・アドヴォケイト」が上級裁判所での弁論を行うことが認められるなど、役割分担は変化しつつあります。

事務弁護士はイングランド・ウェールズ法曹会（Law Society of England and Wales）に所属し、その規制委員会の監督下に置かれています。資格取得には、法学の学位取得、法律実務コースの受講、そして2年間の実務研修が必要です。

近年は、事務弁護士の上級裁判所への出頭も増加しており、職務の厳格な区別は曖昧になりつつあります。独立開業する者も多い一方、大規模な法律事務所では法廷弁護士やソリシター・アドヴォケイトを雇用し、法廷での代理業務を委任するケースも増えています。一方、法廷弁護士側も、組織からの直接依頼を受け付けるなど、役割の垣根は低くなってきています。

スコットランド、アイルランド、オーストラリア、香港、カナダにおける事務弁護士

スコットランドでは、イングランドとウェールズとは独立した法制度のもと、事務弁護士（ソリシター）と法廷弁護士（アドヴォケイト）が区別されています。かつては下級裁判所での訴訟代理が中心でしたが、1990年の法律改革により、上級裁判所での弁論権も認められるようになりました。スコットランド法曹会（Law Society of Scotland）の監督下にあり、資格取得には法学士号の取得や、法律実務課程の受講、実務研修が必須です。

アイルランドでは、独立後もイングランドの制度を多く継承し、法廷弁護士と事務弁護士の分業制が残っています。ただし、1971年裁判所法により、すべての裁判所での弁論権が事務弁護士に認められており、役割分担はあいまいになりつつあります。

オーストラリアでは州によって制度が異なり、法廷弁護士と事務弁護士の区別は名目化しつつありますが、両者が分業している州もあります。すべての事務弁護士が法廷弁護士としての資格を有していますが、実際には法廷弁護士に委任するケースが多いです。

香港では、法廷弁護士と事務弁護士の分業制が残っています。事務弁護士は下級裁判所での弁論権しかありませんが、将来的に上級裁判所での弁論権が認められる可能性があります。

カナダでは、ケベック州を除く州では、法律職は一元化されており、全ての法律専門職が法廷弁護士としての資格と事務弁護士としての資格を兼ね備えています。

事務弁護士の将来

世界的に、法廷弁護士と事務弁護士の役割分担は流動的です。多くの国で、事務弁護士の権限は拡大傾向にあり、その専門性と重要性はますます高まっています。一方で、法廷弁護士の業務範囲も変化し、両者の協働や役割の融合も進んでいます。事務弁護士は、法曹界において不可欠な存在であり続け、今後もその役割は進化を遂げていくでしょう。

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