二村良彦

二村良彦：計算機科学における先駆的な功績

二村良彦氏（1942年-）は、日本の計算機科学における重要な貢献者の一人です。アルゴリズム、計算理論、プログラム自動生成といった分野を専門とし、その研究は理論と実践の両面において大きな影響を与えました。本稿では、氏の生涯と業績について詳細に解説します。

日立製作所時代と二村射影

1965年、北海道大学理学部数学科卒業後、日立製作所に入社。中央研究所に所属し、HITAC 5020のシステムソフトウェア開発に従事しました。この経験から生まれたのが、氏の最も重要な業績の一つである「二村射影」です。LISP 1.5インタプリタのコードを基にLISPコンパイラを作成する過程で、インタプリタを入力としてコンパイラを出力するコンパイラジェネレータという概念を確立しました。この着想は、自己適用可能な部分評価系を用いたエレガントな理論に発展し、1971年に発表されました。この理論は、後にアンドレイ・エルショフ氏によって「二村射影」と称賛され、理論[[計算機科学]]における重要な成果として高く評価されています。

PADの考案と学術活動

1973年にはハーバード大学大学院修士課程を修了。日立製作所基礎研究所主管研究員時代には、構造化チャートの一種であるPAD（Problem Analysis Diagram）を考案しました（1979年頃）。PADは、プログラム設計を明確化し、開発効率を向上させるための視覚的なツールとして広く用いられ、ISO/IEC 8631:1989にも収録されています。1985年には北海道大学より工学博士号を取得し、「コンピュータプログラムの生産性向上に関する研究」という論文を発表しました。また、同時期にはウプサラ大学、ハーバード大学で客員教授を務め、国際的な研究活動にも積極的に参加しました。

一般部分計算(GPC)の研究と産学連携

1980年代後半からは、部分評価系の理論を拡張した一般部分計算(GPC)の研究に本格的に取り組みました。単なる部分評価系をαと呼ぶのに対し、GPCをβと呼んで区別しています。この研究は、理論的な枠組みを超え、実用的なプログラムへの適用を目指したものでした。日立製作所退社後、1991年には早稲田大学理工学部教授およびソフトウェア生産技術研究所所長に就任。GPCに関する特許を取得し(アメリカ合衆国特許第 5,241,678号、1993年8月31日成立)、WSDFU（Waseda Simplify-Distribute-Fold-Unfold）というプロトタイプシステムを開発しました。

SOBAプロジェクトとその後

2001年には、産学協同プロジェクトであるSOBAプロジェクトに参加し、P2P技術を用いた遠隔教育システムの開発に貢献しました。また、SOBAフレームワークの普及を目的とした特定非営利活動法人INCPODの理事長も務めました。2005年には早稲田大学を退職し、Futamura Institute, Inc.を設立しました。

まとめ

二村良彦氏は、LISPコンパイラ開発から始まった研究活動を通じて、計算機科学に多大な貢献を果たしました。二村射影、PAD、そしてGPCといった、氏の研究成果は現代のソフトウェア開発に依然として影響を与えています。理論と実践を融合させた氏の研究姿勢は、後世の研究者たちに大きな刺激を与え続けています。

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