五味俊樹

五味 俊樹（ごみ としき）

五味俊樹氏は、1948年に日本で生まれた著名な政治学者です。その専門は、国際政治学の中でも特にアメリカ合衆国のアジア政策、とりわけ東アジア地域における外交や安全保障に関する研究に焦点を当てています。長年にわたり大東文化大学の教員として活躍し、現在は同大学の名誉教授の称号を有しています。

略歴

五味氏は長野県の出身です。高等教育は上智大学で受け、1972年に法学部法律学科を卒業しました。さらに学問を深めるため同大学大学院に進学し、外国語学研究科国際関係論専攻の博士課程において、1979年に所定の単位を取得し満期退学しています。

研究者としてのキャリアをスタートさせた後、玉川大学文学部で専任講師などを務めました。その後、大東文化大学へと籍を移し、1990年に法学部の助教授に就任しました。1994年には同教授に昇任し、法学部において多くの学生の指導にあたるとともに、活発な研究活動を展開しました。大東文化大学においては、国際比較政治研究所の所長を務めるなど、大学の研究体制の充実に貢献しました。長年の教育・研究における功績が称えられ、2019年には大東文化大学より名誉教授の称号が授与されています。

研究分野と業績

五味氏の主要な研究テーマは、国際政治のダイナミズム、中でもアメリカのアジア太平洋地域に対する戦略や政策の変遷と影響に関するものです。冷戦期からポスト冷戦期、そして現代に至るまで、アメリカがどのように東アジア諸国との関係を構築し、地域秩序にどのような影響を与えてきたのかについて、歴史的視点と現状分析の両面から深い洞察を提供してきました。

その研究成果は、多くの著作や翻訳という形で公表されています。単著としては、国際関係の基礎をわかりやすく解説した『国際関係のコモン・センス』（増補版あり）があります。また、共著書として、戸部良一氏らと共に『昭和史――その遺産と負債』を執筆し、昭和という時代の様々な側面を多角的に分析しました。

共編著としては、長谷川雄一氏と共編した『日本外交と対外紛争』で、日本の外交史における重要な局面を検証しました。さらに、滝田賢治氏との共編で『現代アメリカ外交の転換過程』や『9・11以後のアメリカと世界』を刊行し、現代アメリカ外交の大きな変化とその国際社会への影響について、学術的な視点から考察を加えています。

特に五味氏の業績として特筆すべきは、多数の重要な海外の学術文献を日本語に翻訳し、日本の研究界や学生に紹介した貢献です。ジョナサン・G・アトリーの『アメリカの対日戦略』、ウォルター・ラフィーバーによる戦後アメリカ政治・外交史の労作『アメリカの時代』、スティーヴン・D・コーエンの国際経済論に関する二冊の著作『日米大決戦』と『アメリカの国際経済政策』などを訳しました。また、マイケル・シャラーによる冷戦期アジア研究の古典『アジアにおける冷戦の起源』、ゴードン・A・クレイグとアレキサンダー・L・ジョージの軍事力と外交に関する理論書『軍事力と現代外交』、ヒュー・ボートンの回想録『戦後日本の設計者』、ジョン・ルイス・ギャディスの冷戦史研究『ロング・ピース』など、アメリカ外交史、冷戦史、国際関係理論といった幅広い分野の主要な文献を、多くの共訳者と共に丁寧に翻訳しました。これらの翻訳は、日本の国際政治学研究における基礎文献として広く活用されています。

教育者としても、大東文化大学で多くの学生に国際政治学の知識を伝え、研究者としても、著書や翻訳を通じてこの分野の研究水準の向上に寄与した五味俊樹氏は、日本の国際政治学界において重要な存在です。

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