五式三十粍固定機銃

五式三十粍固定機銃

五式三十粍固定機銃（ごしきさんじゅうみりこていきじゅう）は、大日本帝国海軍が太平洋戦争末期に開発した航空機用三十粍機関砲です。強固な防御を持つ大型爆撃機を確実に撃墜するため、当時の主力戦闘機などに搭載することを想定して開発が進められました。

概要と開発経緯

本機銃の開発は、昭和17年（1942年）3月に「十七試三十粍機銃」として始まりました。海軍航空技術廠（空技廠）が主要部分の設計を担当し、第二火薬廠がこれに協力。試作は日本特殊鋼で行われました。昭和18年（1943年）4月に試作銃が完成し、基礎実験は翌年6月に終了しましたが、その後の地上・空中試験、高空での使用を想定した弾薬の耐寒試験など、実用化に向けた各種評価は難航しました。これらの試験が完了したのは、終戦間際の昭和20年（1945年）3月になってからです。正式な兵器として採用されたのは、昭和20年4月または5月とされています。

しかし、戦況の悪化から開発途上にもかかわらず、昭和18年7月には試作段階の設計図に基づいた大量生産命令が豊川海軍工廠に出されていました。この結果、約2,000挺が生産されましたが、その後の設計変更への対応や、戦争末期の資材不足による材質低下に伴う部品の折損が頻繁に発生しました。また、高速給弾機構に無理がかかることによる装弾不良も構造的な問題として指摘されました。これらの問題は、大型化されたG型装弾子の開発によって最終的に解消されたとされます。五式三十粍機銃は、性急な開発と生産体制の中で多くの課題を抱えたまま、本格的な戦力化に至る前に日本の敗戦を迎えることとなりました。

構造と性能

五式三十粍固定機銃は、ガス圧、反動、API（Advanced Primer Ignition）方式という複数の作動機構を組み合わせた複雑な複合式を採用しています。重量は70kgで、二式三十粍固定機銃（約50kg）よりも重いものの、約350gの弾丸を初速約750m/sで発射することが可能でした。これは、約265～295gの弾丸を約710m/sで発射する二式三十粍機銃を上回る単発威力を持っていました。

銃口には涙滴状のマズルブレーキを備え、これはコーン型の整流覆で銃身と繋がっています。マズルブレーキには円形のガス抜き穴が放射状に配置されています。銃身の基部左右には駐退ばねがあり、銃身中央下部にはガスシリンダーが設けられています。尾栓はAPI方式で動作し、機関室底部左右のばねによって前後動します。機関室上面には、機関部と連動する機械式給弾装置があります。

弾薬

五式三十粍機銃の弾薬包は、全長122mm、後端直径39mmのボトルネック型薬莢を持ち、後端は無起縁式です。弾丸は導環（駆動帯）後部の溝で薬莢に固定されます。弾薬包全長は弾種によって異なります。

主要な弾種には以下のようなものがありました。

通常弾: 弾頭に信管があり、内部に炸薬を充填。塗色は錆色。全長約210mm、重量約660g。
徹甲弾: 硬化処理された弾頭に被帽を被せ、弾底部に炸薬を収容。塗色は白色。弾丸重量378g。
焼夷通常弾: 弾頭信管後部に炸薬と黄燐を充填。塗色は黄色。弾丸重量354g。
曳光通常弾: 弾道を示す曳光機能を持つ。弾頭に炸薬、弾底に曳光薬などを充填。塗色は赤色。弾丸重量350g。
曳光弾: 弾体内部が一部中空で、弾底に曳光薬を収容。塗色は赤色。弾丸重量350g。
演習弾: 弾体内部は中空。塗色は黒色。弾丸重量350g。

搭載

五式三十粍機銃は、局地戦闘機「雷電」「天雷」「極光」、夜間戦闘機「月光」、爆撃機「銀河」、偵察機「彩雲」といった様々な機体で試験的に搭載されました。特に、昭和20年5月には雷電三三型に試験配備されましたが、実戦部隊からは機銃の重量増加や携行弾数減少による不利が懸念されました。また、「彗星」や「彩雲」への斜銃としての試験搭載では、発砲時の強烈な反動や振動が問題となり、搭載が見送られた経緯があります。最終的には、烈風改、秋水、震電、橘花改など、終戦間際に計画・試作された機体への搭載が予定されていました。

現存

五式三十粍固定機銃は、現在も数挺が現存しています。アメリカのケンタッキー軍事歴史博物館には一型が保管されており、「五式三十粍一型、昭和20年製、1724号銃、豊川海軍工廠製」を示す製造番号が確認されています。また、ドイツのコブレンツにある国防技術博物館にも、本機銃と見られる展示品が存在します。

十八試二十粍固定機銃

五式三十粍機銃の開発と並行して、そのスケールダウン版として「十八試二十粍固定機銃」の試作も行われていました。この機銃は、五式と同じく複合式で、約40kgと軽量ながら高初速・高発射速度を目指しました。昭和18年9月に要求性能が定められ、空技廠で設計・試作が進められました。昭和19年1月に試作銃が完成し、零戦での空中実験も実施されましたが、九九式二十粍二号五型の実用化が見通せたことから、昭和20年3月頃に開発は中止されました。この開発で得られたデータは、五式三十粍機銃の開発に参考にされたと言われています。ケンタッキー軍事歴史博物館で発見された五式三十粍機銃と共に、この十八試二十粍機銃の試作銃も発見されています。

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