井上周一郎

井上周一郎

井上 周一郎（いのうえ しゅういちろう）は、1975年に長崎県諫早市で生まれた日本の彫刻家です。現在、鹿児島女子短期大学児童教育学科の教授を務める傍ら、精力的な制作活動を展開しています。

経歴と研鑽

井上氏は、2000年に鹿児島大学大学院教育学研究科の美術教育専攻彫刻分野を修了しました。その後、彫刻の本場であるイタリアへ渡り、2004年から国立カッラーラ美術学院彫刻科で学び、2008年に卒業。このイタリアでの留学経験は、大理石という素材との向き合い方や、国際的な視野を培う上で重要な期間となりました。留学中も、現地の国際彫刻シンポジウムに参加したり、ミラノの日本国総領事館で個展を開催するなど、積極的に活動を展開しました。

作風と活動

井上氏の制作活動は、主に大理石を用いた彫刻が中心です。硬質な素材である石を扱いながらも、その作品からは柔和で優美な雰囲気、あるいは気品が感じられるのが大きな特徴と評されています。美術評論家の武田厚氏は、第50回記念日本彫刻会展覧会で東京都知事賞を受賞した作品「春水」について、「石を扱いながら、主題に見る通りの、柔和で優美な香りを感じさせる表現も特異である」と講評しており、その独自の表現力が評価されています。

これまでに、井上氏の作品は各地に設置されています。母校である長崎県立西陵高等学校や指宿市立指宿商業高等学校への設置を皮切りに、イタリアの石材会社M＋Qへの野外設置、がん粒子線治療研究センター『メディポリス指宿』への「慈愛」像の設置、かごしま近代文学館への作家・向田邦子彫刻「出合う」の設置、城山観光ホテルへの「林芙美子文学碑」設置など、パブリックな空間や記念碑的な作品も数多く手がけています。

主な展覧会と受賞歴

国内外で多くの展覧会に参加し、高い評価を得ています。国内では、美術の主要な登竜門である日展や白日会展、日本彫刻会展覧会を中心に作品を発表。白日会展では連続入選を経て会友奨励賞を二度受賞、日展でも1997年から2011年まで連続入選を果たしています。特に日展においては、2014年の改組 新 第1回展で「羽化」が、2016年の第3回展で「涙の行方」がそれぞれ特選を受賞。さらに2021年の第50回記念展では「春水」が最高賞の一つである東京都知事賞を受賞するなど、日本の彫刻界における確固たる地位を築いています。また、2020年には改組 新 第7回日展の審査員も務めました。

地域においても、鹿児島県美術展での鹿児島市長賞（2002年）、長崎県美術展での長崎県知事賞（2002年、2004年）および西望平和賞（2004年）を受賞。公益財団法人かぎん文化財団からの文化財団賞（2009年）、鹿児島市芸術文化協会からの鹿児島市春の新人賞（2010年）、鹿児島県芸術文化奨励賞（2020年）など、出身地や活動拠点である九州地方でもその功績が広く認められています。2019年には第49回日本彫刻会展覧会で「潮騒」が新人賞を受賞するなど、所属する美術団体でも評価を高めています。

個展活動も活発で、鹿児島県内で複数回開催されているほか、長崎県の諫早市美術・歴史館でも展覧会を開いています。また、2001年からは彫刻グループ展「想刻展」を毎年開催しており、鹿児島における彫刻芸術の振興にも貢献しています。

現在の活動

現在、鹿児島女子短期大学で教授として児童教育学科の学生に指導を行う傍ら、鹿児島大学教育学部でも非常勤講師を務めるなど、教育者としての顔も持っています。日展会員、日本彫刻会正会員（展覧会委員）、白日会会員、日本美術家連盟会員として、美術界における要職も担っています。大理石という素材の持つ可能性を追求し続け、独自の柔らかな表現で国内外の彫刻界において存在感を示しています。

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