井上春生

井上 春生（いのうえ はるお）は、1963年生まれ、奈良県出身の日本の映像作家です。映画監督、脚本家、CM&TVディレクターとしても多岐にわたり活躍しています。

同志社大学法学部を卒業後、東映京都撮影所にて深作欣二監督や降旗康男監督らに師事し、映像制作の基礎を築きました。商業分野においてもその才能を発揮しており、2001年には資生堂のCM「おもてなしの国から。」篇でJAA広告コンクール銅賞を、2006年には資生堂PV「TSUBAKI春宣言」篇でACC CM FESTIVALキャンペーン特別賞を受賞するなど、CMやプロモーションビデオ制作で数々の実績を残しています。

映画監督としては、2005年に携帯電話配信向けに制作されたショートフィルム「ため息の理由」（加藤ローサ主演）や「bird call」（鈴木えみ主演）が、携帯配信映画の先駆けとして注目を集め、後に劇場公開されるに至りました。2006年にはエピックレコードジャパンが映画業界に参入した映画シリーズ「cinemusica」を立ち上げ、アーティストの楽曲を映像で表現する独自のスタイルを展開。いきものがかりの作品などを手掛け、北川景子の映画初主演作となった「チェリーパイ」もこのシリーズから生まれました。

井上氏は映像制作活動に加え、教育や社会貢献にも熱心に取り組んでいます。大学での映像文化支援に関する講義を行うほか、天理大学のプロジェクトとして「Creative映画塾」を主宰するなど、次世代の映像作家育成にも力を入れています。東日本大震災の際には、作家の島田雅彦氏が主宰する「復興書店」に賛同し、女優の佐伯日菜子氏が出演する告知映像をプロデュースするなど、「表現の寄付」という形で社会貢献を行いました。

彼の活動の中でも特筆すべきは、アフガニスタンの映画復興支援をライフワークとしている点です。アフガニスタンの映画監督たちと交流を深め、2005年にはカブール大学芸術学部と共同で、セディク・バルマク監督ら現地監督と連携した日本アフガニスタン合作ドキュメンタリー作品「KABUL TRIANGLE」（3本のオムニバス）をプロデュース兼総監督として手掛けました。この協力関係は継続され、日本でのアフガニスタン映画祭を4度にわたって開催しています。

近年はドキュメンタリー作品でも高い評価を受けています。2018年には日本を代表する詩人である吉増剛造氏を一年間追ったドキュメンタリー「幻を見るひと」を発表。この作品はアメリカやイタリアなど、様々な国の国際映画祭で最優秀監督賞や最優秀ドキュメンタリー長編部門賞など多数受賞しました。さらに、2022年製作のジョナス・メカス追悼映画「眩暈 VERTIGO」は、日本のドキュメンタリーとしては異例となる国際映画祭43冠という快挙を達成し、世界中でその芸術性が認められました。

また、アフガニスタンの現状にも継続的に向き合っています。2021年10月にはEテレのETV特集「アフガニスタン 運命の8月」の演出、出演、語りを担当。タリバン復権後のカブールにいる知己のアーティストや関係者の生の声・映像をリモートで記録・放送し、大きな反響を呼びました。最新の企画としては、自身が手掛ける「妖精とアインシュタインと桜の木」（Fairy, Einstein and the Cherry Trees）が、2022年の第75回カンヌ国際映画祭Marché du Filmに日本代表として選出され、今後の制作が期待されています。

井上春生氏は、商業作品から社会派ドキュメンタリー、国際貢献、教育活動に至るまで、その活動範囲は広く、国内外でその手腕が高く評価されている映像作家です。彼の作品は、常に多様な視点と深い人間洞察をもって観る者に語りかけます。

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