井上篤

井上 篤（いのうえ あつし）

井上篤氏は、日本を代表する経済学者の一人であり、特に計量経済学の分野で国際的に知られています。現在はアメリカ合衆国のヴァンダービルト大学経済学部で教授を務めています。

研究分野と貢献

井上教授の専門は、計量経済学、とりわけ時系列分析に深く根差しています。彼は、構造ベクター自己回帰（SVAR）モデルや動学的確率一般均衡（DSGE）モデルといった、マクロ経済学で広く用いられるモデルに対する計量経済学的なアプローチの発展に多大な関心を寄せ、研究を進めてきました。これらのモデルは、景気変動や政策効果の分析に不可欠ですが、その適切な推定や分析には高度な計量手法が必要です。井上教授は、こうした手法の理論的基盤を強化し、実証分析への応用可能性を広げる研究に取り組んでいます。

学歴とキャリア

井上教授は、1998年にペンシルベニア大学で経済学の博士号（Ph.D.）を取得しました。その後、北米の複数の著名な大学で教鞭をとることになります。

1998年から2003年にかけて、ノースカロライナ州立大学農業経済学部で助教授を務めました。
続く2003年から2009年までは、同大学の農業経済学部で准教授に昇任しました。
この間、2006年から2008年には、ブリティッシュコロンビア大学経済学部でも准教授として研究・教育に携わっています。
ノースカロライナ州立大学には2013年まで在籍し、2009年からは教授として活躍しました。
2013年から2014年の間は、南メソジスト大学経済学部で教授を務めました。
そして、2014年からはヴァンダービルト大学経済学部の教授として、現在に至るまで第一線で研究と教育を続けています。

主な受賞

井上教授は、その顕著な研究業績が評価され、2011年に中原賞を受賞しました。中原賞は、日本の優れた若手および中堅経済学者に授与される権威ある賞であり、井上教授の研究が日本国内でも高く評価されていることを示しています。

学術活動と近年の研究成果

井上教授は、研究活動に加え、学術コミュニティへの貢献も積極的に行っており、特に主要な経済学術誌であるJournal of Business and Economic Statisticsの編集長を務めた経験があります。これは、彼が計量経済学分野におけるリーダーの一人であることを物語っています。

近年の研究では、以下のような多岐にわたるテーマに取り組んでいます。

操作変数法やローカルプロジェクション法における信頼区間および推定量の歪みに関する研究。
モデルの特定化誤差（ミススペシフィケーション）の原因特定に関する研究。
金融政策（通常および非伝統的）が為替レートに与える影響の分析。
準ベイズ的なアプローチを用いたモデル選択手法の開発。
DSGEモデルのためのインパルス応答整合推定量に関する研究。
時変パラメータモデルにおける標本外予測のためのローリングウィンドウ選択手法。
構造的インパルス応答の同時信頼集合の構築。
消費者の異質性が財政政策ショックに与える影響の分析。
* 金利の下限制約が推定されたDSGEモデルのパラメータ推定に与えるバイアスに関する研究。

これらの研究は、マクロ経済の実証分析において重要な手法を提供し、政策分析や経済予測の精度向上に貢献しています。井上教授の研究は、トップジャーナルに多数掲載されており、国際的な学術界に大きな影響を与えています。

井上篤教授は、計量経済学、特に時系列分析とマクロ経済モデルへの応用において、理論と実証の両面から貢献を続ける、現代経済学における重要な研究者です。

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