井筒俊彦学術賞

井筒俊彦学術賞について

井筒俊彦学術賞は、慶應義塾大学文学部が2015年に創設125周年を迎えたことを記念し、文学部に連なる新進気鋭の研究者のさらなる活躍を奨励するために設けられた研究奨励賞です。

応募資格

この賞に応募できるのは、原則として50歳未満の研究者で、以下のいずれかに該当する方です。

慶應義塾大学の専任教員
慶應義塾大学文学部卒業者
慶應義塾大学文学研究科出身者
慶應義塾大学社会学研究科出身者

対象となる研究領域は、哲学、倫理学、歴史学、民族学考古学、図書館・情報学、社会学、心理学、教育学、人間科学など、人文科学に関わる幅広い分野の著作です。

賞の概要

井筒俊彦学術賞は、同じく研究奨励賞である西脇順三郎学術賞と同時期に設立されました。2016年以降は、奇数年に井筒俊彦学術賞、偶数年に西脇順三郎学術賞が隔年で交互に授与されることになっています。この隔年での授与は、それぞれの賞の独自性を保ちながら、より多くの研究者を支援するための措置です。

歴代受賞作

以下は、過去の受賞作品の一覧です。各受賞者の研究テーマや視点の多様性、学術的貢献の高さが伺えます。

第1回（2015年）：佐藤仁史（一橋大学大学院社会学研究科教授）
『近代中国の郷土意識：清末民初江南の在地指導層と地域社会』（研文出版、2013年）

この研究は、近代中国における地域社会の変容を、郷土意識という観点から詳細に分析したものです。地方の指導層が地域社会の形成にどのように関わったのかを深く掘り下げています。

第2回（2017年）：高山真（慶應義塾大学文学部非常勤講師）
『＜被爆者＞になる：変容する＜わたし＞のライフストーリー・インタビュー』（せりか書房、2016年）

この研究は、被爆者のライフストーリーをインタビュー形式で収集し、その語りを通して「被爆者」というアイデンティティがどのように形成されていくのかを考察しています。個人の経験と社会的な意味づけの関係に着目した研究です。

第3回（2019年）：下田健太郎（慶應義塾大学文学部助教）
『水俣の記憶を紡ぐ：響き合うモノと語りの歴史人類学』（慶應義塾大学出版会、2017年）

この研究は、水俣病という社会問題を通して、歴史と記憶がどのように形成されていくのかを、歴史人類学的な視点から分析しています。モノと語りの相互作用に着目し、多角的な考察を展開しています。

第4回（2021年）：志村真幸（慶應義塾大学文学部非常勤講師）
『南方熊楠のロンドン：国際学術雑誌と近代科学の進歩』（慶應義塾大学出版会、2020年）

この研究は、博物学者である南方熊楠がロンドンでどのように活動したかを、当時の国際学術雑誌と近代科学の発展という観点から分析しています。南方熊楠の国際的な活動と近代科学の関係性を明らかにした研究です。
第5回（2023年）：前田廉孝(慶應義塾大学文学部准教授)
『塩と帝国：近代日本の市場・専売・植民地』（名古屋大学出版会、2022年）

この研究は、近代日本における塩の流通と専売制度が、帝国の拡大とどのように関連していたかを分析しています。経済史の視点から、近代日本の歴史を再検討するものです。

井筒俊彦学術賞は、文学部の理念に基づき、人文科学の多様な分野において、優れた研究を積極的に奨励する重要な役割を担っています。この賞を通じて、次世代の研究者がより一層活躍することが期待されています。

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