交響曲第36番 (モーツァルト)

交響曲第36番 ハ長調 K. 425「リンツ」

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが1783年に作曲した交響曲第36番は、特にその迅速な制作過程から「リンツ」という愛称で知られています。この作品は、モーツァルトがリンツで伯爵トゥーン・ホーエンシュタインの予約演奏会のために、わずか4日間で完成させたという経歴を持っています。この短期間での作曲は、彼の才能を証明する一例として音楽史に名を残しています。

この交響曲は、ウィーン古典派の中でも非常に高い完成度と評価されており、特に第38番「プラハ」や、三大交響曲として知られる39番、40番、41番「ジュピター」に続く傑作として多くの演奏機会を得てきました。またこの作品の自筆スコアは、モーツァルトの生存時から行方不明です。1991年にクリフ・アイゼンが校訂したペータース版スコアや、2024年のヘンリク・ヴィーゼによるブライトコプフ・ウント・ヘルテル社版は、さまざまな筆写譜をもとに新たに構成されています。その中には、2001年に西川尚生が発見したモーツァルトの遺品と思われるパート譜も含まれています。

楽器編成

この交響曲のために用いられる楽器編成は以下の通りです：

• - オーボエ：2
• - ファゴット：2
• - ホルン：2
• - トランペット：2
• - ティンパニ：1
• - 弦楽器：5部

曲の構成

演奏時間はおおよそ26〜37分で、これはテンポや楽曲の反復によって差が生じます。

第1楽章 アダージョ - アレグロ・スピリトーソ

この楽章はハ長調の4/3拍子から4/4拍子へと変わり、序奏付きのソナタ形式で構成されています。モーツァルトが自身の交響曲で初めて緩やかな序奏を取り入れた点も注目です。主部の冒頭は「生き生きと」と指示され、シンプルながらも美しい旋律が印象に残ります。特に音符が伸ばされる第1主題の旋律は魅力的で、b音が美しさに彩りを添えています。続く第2主題では短調と長調が交互に現れ、全体としてオクターブの跳躍が特徴的です。

第2楽章 アンダンテ

ヘ長調の8/6拍子で、ソナタ形式です。この章では、トランペットとティンパニを用いた珍しい構成が見られます。展開部では、低弦楽器とファゴットによるスタッカートのパッセージが聴かれ、印象的なシーンを生み出しています。

第3楽章 メヌエット

この楽章はハ長調、4/3拍子で、飛躍するようなリズムが特徴的な主部とともに、オーボエとファゴットの美しい二重奏が楽しめるトリオが組み合わされています。

第4楽章 プレスト

最後の楽章はハ長調の4/2拍子で、ソナタ形式です。主題同士の跳躍感が生かされており、軽やかな第1主題とレガートで流れる第2主題が印象的です。対旋律や7度の跳躍が織りなすパッセージもあり、充実したコデッタで締めくくられます。展開部ではアルペッジョの旋律が展開され、作品全体の高揚感を引き立てます。

このように、モーツァルトの交響曲第36番は彼の音楽の美しさと才能を感じさせる名作であり、多くの演奏や録音が行われる理由にもなっています。

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