京都市電稲荷線

京都市電稲荷線：伏見稲荷へのアクセスを担った路線の歴史

京都市電稲荷線は、京都市伏見区を走っていた路面電車の路線です。明治時代に京都電気鉄道によって敷設され、その後京都市に引き継がれました。伏見区の勧進橋から伏見稲荷大社前までを結ぶ、全長約2キロメートルの路線でした。稲荷線は、京都市電の中で唯一、全線が専用軌道として敷設されていたという特徴を持っていました。

稲荷線は、伏見線という主要路線の支線的な役割も担っていました。戦時体制下の一時期を除き、稲荷線の電車は全て伏見線に直通運転を行っていました。そのため、伏見線を利用する乗客にとって、稲荷線は伏見稲荷大社へのアクセス路線として重要な役割を果たしていました。特に、正月の三が日には、初詣客で大変な賑わいを見せました。

しかし、時代の流れとともに利用客は減少していき、1970年（昭和45年）、稲荷線は伏見線とともに廃止されることとなりました。66年に及ぶ歴史に幕を閉じました。廃止後、稲荷線の跡地は再開発され、現在では稲荷児童公園の一部となっています。2020年には公園の改修工事が行われ、その際に地中に埋められていた線路の一部が偶然にも露出するという出来事がありました。これは、かつて稲荷線を走っていた電車の姿を彷彿とさせる、貴重な発見となりました。

稲荷線の歴史：開業から廃止まで

稲荷線の歴史を年表形式で見ていきましょう。

1904年（明治37年）8月4日: 京都電気鉄道伏見線支線として、勧進橋～稲荷間が開業しました。
1918年（大正7年）7月1日: 京都市が京都電気鉄道を買収し、稲荷線は京都市電の路線となりました。
1923年（大正12年）6月26日: 軌間の標準軌化工事が完了しました。
1931年（昭和6年）7月9日, 1934年（昭和9年）7月2日: 京阪本線の電車との衝突事故が発生しました。これらの事故は、平面交差によるものでした。事故を契機に、京阪電鉄から市電に電車が譲渡されることになります。
1970年（昭和45年）3月18日: 運輸大臣と建設大臣から、稲荷線の廃止が認可されました。
1970年（昭和45年）3月31日: 廃止を惜しむ「さよなら電車」が運行されました。
* 1970年（昭和45年）4月1日: 稲荷線が廃止され、バス路線に転換されました。

稲荷線の運行と特徴

稲荷線は、伏見線と直通運転を行っており、途中駅はほとんどありませんでした。終点の稲荷駅は、伏見稲荷大社の最寄り駅として、多くの参拝客で賑わっていました。また、稲荷線は全線が専用軌道だったため、他の交通と干渉することなくスムーズな運行が確保されていました。しかし、この専用軌道という特徴ゆえに、経費の削減が難しく、最終的には廃止という決断に至ったと言われています。

稲荷線と京阪本線との交差

稲荷線は、京阪本線の伏見稲荷駅付近と平面交差していました。この平面交差は、安全面でのリスクが常に存在していました。そして、1931年と1934年には、実際に京阪本線の電車と衝突する事故が発生しています。これらの事故を教訓に、安全対策の強化が図られたものの、根本的な解決には至りませんでした。

廃止後の稲荷線

稲荷線が廃止されてから約50年が経過した2020年、稲荷児童公園の改修工事の際に、地中から線路の一部が発見されました。これは、かつて稲荷線がここで走っていたことを物語る、貴重な証拠となっています。現在、この線路は公園内に保存されているわけではありませんが、稲荷線の歴史を偲ぶことができる、ささやかながらも重要な証左と言えるでしょう。

まとめ

稲荷線は、伏見稲荷大社へのアクセス路線として、そして京都市電の唯一の全線専用軌道路線として、多くの市民に利用されてきました。短いながらも歴史と記憶を残した稲荷線は、現在ではその面影を公園などにわずかに残すのみとなっていますが、その存在は、京都の歴史を語る上で重要な要素の一つと言えるでしょう。

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