人工尿道括約筋

人工尿道括約筋とは

人工尿道括約筋は、自らの尿道を締める機能が著しく低下した重症の尿失禁に対して行われる、外科的な治療法です。特に、男性における前立腺がんや前立腺肥大症などの手術後に生じる、難治性の尿失禁に対して有効な選択肢の一つとされています。この治療は、体内に埋め込む医療機器によって、尿道を人工的に開閉する機能を再建することを目的とします。代表的な機器としては、約40年の歴史を持ち、世界中で13万人以上の患者に使用実績のある米国AMS社製のAMS800があり、この分野における標準的な機器として広く認識されています。

どのような状態に有効か

人工尿道括約筋の適応となるのは、主に以下のような原因による重度の尿失禁です。

内因性括約筋不全（ISD）: 尿道括約筋自体の機能が低下している状態。
前立腺手術後の尿失禁: 特に、前立腺がんの摘出術や前立腺肥大症の手術後、尿失禁が1年以上経過しても改善が見られない場合。
外傷による尿失禁: 骨盤骨折などによって尿道やその周囲の組織が損傷し、括約筋機能が障害された場合。
神経障害による尿失禁: 二分脊椎など、神経系の病気によって膀胱や尿道の機能が適切に制御できなくなった場合。
* 腹圧性尿失禁: 重症の腹圧性尿失禁に対しても、主要な治療法の一つとして考慮されます。

機器の構造と機能

人工尿道括約筋システムは、主に三つの部品から構成されます。これらは手術によって体内に埋め込まれます。

1. カフ (Cuff): 尿道の周囲に巻き付けられ、通常時は尿道を圧迫して尿が漏れるのを防ぎます。
2. コントロールポンプ (Control Pump): 男性では通常、陰嚢内に埋め込まれ、患者自身が手で操作してカフの圧迫を一時的に解除するために使用します。
3. 圧調整バルーン (Pressure Regulating Balloon): 通常、下腹部の腹腔外に埋め込まれ、カフ内の液体を貯留したり、カフにかかる圧力を一定に保つ役割を果たします。

排尿の手順

通常時、カフは尿道を締め付けているため尿は漏れません。排尿したい時は、陰嚢内のコントロールポンプを数回握ることで、カフ内の液体が圧調整バルーンへ移動し、尿道の圧迫が解除されます。これにより尿道が開き、排尿が可能となります。排尿を終えると、約3〜4分かけてカフ内の液体が再びバルーンからカフへ移動し、自動的に尿道の圧迫が再開されます。

期待される効果と現実

この手術の目的は、重症尿失禁を大幅に改善し、生活の質を向上させることにあります。多くの場合、手術前と比較して尿漏れの量が劇的に減少し、1日のパッド使用枚数が1枚程度にまで改善することが期待できます。ただし、人工尿道括約筋は尿失禁を完全にゼロにする治療法ではないことを十分に理解しておくことが重要です。排尿後の機器の復旧時間などにより、わずかな尿漏れが生じる可能性はあります。

歴史と信頼性

人工尿道括約筋を用いた治療は、長年にわたり実施されてきた実績があり、重症尿失禁に対する治療法として高い信頼性を確立しています。特に男性においては、最も頼りになる治療選択肢の一つと位置づけられています。

安全性と合併症

手術は通常、全身麻酔下で行われます。全身麻酔に伴う一般的なリスクに加え、人工尿道括約筋の植え込み手術に特有の合併症も報告されています。これには、手術箇所の感染、植え込まれた機器の機械的な不具合、そしてカフによる尿道への慢性的な圧迫による尿道のびらんや萎縮などが含まれます。

医療費について

人工尿道括約筋植え込み術は、2012年4月から日本の健康保険が適用される一般的な治療となりました。これにより、以前は先進医療として高額な自己負担が必要だった時期と比べて、多くの患者さんがこの治療を受けやすくなっています。

維持管理

この機器は電気的な電源を必要とせず、構造が比較的単純であるため、日常的なメンテナンスはほとんど不要とされています。

患者向け情報

人工尿道括約筋に関するより詳しい情報や体験談、治療を行っている医療機関のリストなどは、患者さん向けの情報サイトなどを通じて提供されています。自身の状態に適した治療法かどうかを判断するためには、専門医との十分な相談が必要です。

出典：本記事は、主に公開されている医療情報や患者向け情報サイトの内容に基づき作成されています。より詳細な情報は専門の医療機関にお問い合わせください。

もう一度検索