人形峠 (漫画)

人形峠

漫画家・方條ゆとりと望月菓子による合作漫画。

デジタルコミック誌「GANMA!」にて、2015年12月31日から隔週日曜日で連載を開始しました。物語は続き、2021年2月7日からは第2部「帰惨編」が描かれています。

また、2018年7月29日からは、GANMA!上で全12話のムービングコミックとしても配信されました。

閉ざされた村への旅と恐怖の始まり

城南高校2年C組の生徒たちは、学校行事である農村体験のため、幸神村（こうじんむら）へ3泊4日のホームステイにやってきます。主人公の一人となる青井賢登（あおい けんと）、伊万里舞（いまり まい）、藤崎みなも（ふじさき みなも）、深沢皐（ふかざわ さつき）、石上春也（いわかみ しゅんや）からなる3班は、兼業農家である支倉家に滞在することになります。

滞在先の支倉家には、決して近づいてはならないと厳しく言われた古い蔵がありました。しかし、賢登がこの忠告に逆らい、興味本位で蔵に足を踏み入れたことから、事態は急変します。蔵の中で見つけた「ひな（人形）」との接触が、賢登に幻覚を見せる原因となるのです。

到着したその夜、幸神村を大きな地震が襲います。この地震によって、村と外部を繋ぐ唯一の交通路である人形峠トンネルが崩落し、生徒たちは外界から完全に孤立してしまうのです。この閉鎖された極限状況下で、村に古くから伝わる禁忌、奇怪な現象、そして人間の隠された本性が次々と露わになっていきます。

狂気に染まる登場人物たち

物語の中心となるのは、幸神村に閉じ込められた城南高校の生徒たちです。それぞれが抱える秘密や過去、そして極限状態での心理的な変化が、物語の展開を大きく左右します。

3班：
青井 賢登： 物語の最初の犠牲者でありながら、その死の真相が物語を牽引します。クラスメイトのSNSを覗き見、その本性を暴くことを愉しむ悪趣味な一面を持ち、これが彼の悲劇的な結末に繋がります。
伊万里 舞： 内気な性格の裏に、自己保身のためなら他人を陥れる冷酷さを秘めています。過去のいじめ経験が原因で他者を信用できず、猜疑心と嘘が彼女を追い詰めていきます。後に青井殺害の実行犯であることが判明し、物語の鍵を握る存在となります。
藤崎 みなも： 3班の班長を務めるツインテールの少女。ツンデレな性格で深沢皐に好意を抱いています。ストーカー被害に悩まされる中で村の異変に巻き込まれ、精神的な均衡を崩していきます。
深沢 皐： 不気味な予知夢を見る少年。過去に幸神村で母親を失った壮絶な経験を持ち、その記憶に苛まれています。閉鎖された村からの脱出と村の謎の解明を目指し、物語の実質的な主人公として立ち向かいます。
石上 春也： 関西弁を話す明るいムードメーカー。一見チャラい言動が目立ちますが、仲間思いで真っ直ぐな一面も持ち合わせています。極限状況でも仲間を気遣い、支えとなります。

他の班の生徒たち：
工藤 真理： 4班の生徒。普段は普通を装っていますが、その本性は先天的なサイコパスです。村の異変を機に箍が外れ、猟奇的な殺人を繰り返します。物語に決定的な影響を与えた人物です。
水火土 礼子（みかど れいこ）： 2班の生徒。群を抜いた知性と洞察力を持ち、幸神村が現実には存在しないことに気づくなど、村の不可解な状況を冷静に分析します。物語の核心に迫る重要な役割を担います。
遠野 藍作： 2班の生徒で小説家志望。異常な状況を小説のネタにしようと客観的な視点を保とうとしますが、仲間の危機には良心を見せます。水火土と共に村の謎を追います。
野々宮 花恋： 5班の生徒。冷静沈着でサバイバル能力に長けており、生徒たちのリーダー的存在となります。各班の情報を集め、状況打開のために奔走します。
風置 今日介： 6班の生徒。マスクで顔を隠し、根暗で毒舌家。過去のいじめ経験から人間不信に陥っており、特に村人に対して強い不信感を抱いています。星を使った方角判断など、サバイバル能力を発揮します。

幸神村の呪物：人形様と村の因習

幸神村は、地図から消えたとされる謎の村であり、独特の人形文化を持つ地です。物語の舞台は、10年前に土砂災害で壊滅したとされる、災害発生直前の2006年の村であると示唆されます。

村に存在する「人形様（ひいなさま）」は、お酒をかけると幻覚作用のある香りを放ち、嗅いだ者を狂気に陥らせる奇怪な人形です。この人形は全部で6体存在し、全て集めて贄を捧げる「儀式」を行うことで、願いが叶うと信じられています。

かつて村では「ひいな神」と呼ばれる存在が祀られていましたが、明治時代に起きたある悲惨な事件を境に行方不明となり、その代わりにこの6体の「人形様」が作られたと伝えられています。

村を囲むように存在する6体のお地蔵様は、村を厄災から守るのではなく、逆に強力な力を持つひいなさまを結界で村内に閉じ込め、周辺地域への影響を防ぐ役割を果たしていると言われています。10年前の土砂災害でこの結界が一部破壊されたことが、現在の異変に繋がっている可能性が示唆されています。

村の根源にある悲劇：明治時代の惨劇

幸神村の閉鎖的な性質と奇怪な因習は、明治時代に起きた凄惨な事件に深く根差しています。

古来より村では、ひいな神を守護する一族が村人から供物を預かり、神に捧げることで村の安寧が保たれると信じられていました。しかし明治時代、未来を予言する「件（くだん）」が現れ、不吉な予言を告げます。村人は予言から逃れようと小豆を捧げますが、長雨による不作と飢饉が発生し、多くの餓死者が出ました。

飢餓に苦しむ村人は、飢饉の影響を受けていないように見えた守護一族に対して疑念と怒りを募らせます。「ひいな神の加護を独り占めしている」という悪評が広まり、激昂した村人たちは一族を皆殺しにし、ひいな神を祀るお堂に火を放ちます。

暴動の最中、ひいな神は行方不明となります。村人は、最後まで生き残っていた巫女の娘にひいな神の在り処を尋ねますが、娘がそれを知らなかったため、彼女もまた惨殺されてしまいます。そして、村人は6分割された娘の遺体を贄として、二度とひいなさまが独占されないように、人形師の穏土に6体の新たな人形様の製作を依頼したのです。

このおぞましい事件は、外部に知られることなく、村と恐れた当時の警察や周辺の村によって徹底的に隠蔽されました。現在、この惨劇の全てを知る者は、人形師の穏土ただ一人となっています。生徒たちは、この隠蔽された血塗られた歴史が、現代の幸神村に引き起こす恐怖に直面することになります。

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