人影の石

人影の石（ひとかげのいし）

人影の石は、広島平和記念資料館に展示されている重要な遺物で、原爆による悲劇的な歴史を象徴しています。この展示物は、1945年8月6日の原子爆弾投下時に、広島市の住友銀行広島支店の入口前に座っていた人の影の跡であるとされています。この人影は、「死の人影」とも呼ばれることがあります。

起源と背景

人影の石は、被爆時に原爆の熱線によって周囲の石段が焼かれ、その影の部分だけが残ったと考えられています。資料館による説明では、元々は銀行の開店前に石段に座っていた人が被爆し、周囲の石段の表面が白く焼けたことが影の原因だと言われています。しかし、2000年には奈良国立文化財研究所による調査で、影の部分は実際には付着物によって黒くなっていることが明らかになりました。

住友銀行広島支店は爆心地から260メートルの距離にあり、1928年に設立されました。建物は鉄筋コンクリート造で、デザインにはロマネスク様式が採用されています。原爆投下によって建物に大きな被害を受けましたが、金庫室は無傷で、内部の金銭や書類は保存されていました。

被爆の影響と人影の石の歴史

原爆投下当日、住友銀行の従業員58人がその場にいましたが、社内で死亡した即死者は29人、負傷者は約40人に上ります。被爆後、この影は「原爆名所」として認識され、広島市の観光名所としても知られるようになりました。特に、影が生み出す酷く悲しい歴史は人々の心に深く残るものであり、住友銀行側もその保護に尽力しました。

1971年に住友銀行が建て替えに伴い、影の部分が切り取られ、平和資料館に寄贈されました。寄贈された石のサイズは、水平部分が約3.3平方メートル、垂直高さが約2メートルです。資料館に移されてからも風化が進み、1975年にはその復元方法を検討し、1991年からは本格的な保存方法の研究が始められました。現在はガラスで囲まれて展示されています。

人物の特定と証言

影の部分に座っていた人物に関しては、その正体が特定されていません。多くの証言によると、彼または彼女は原爆の閃光にさらされ、その場で即死したか、倒れたまま亡くなったとされています。平和資料館には、被爆時にその場にいたという証言を持つ元兵士が存在しますが、特定の名前や詳細はわからない状態です。

一時期は「越智ミツノ」という42歳の女性の名が挙がっていましたが、その確証はありません。平和資料館の説明によれば、事故の目撃者から「自分の家族かもしれない」という申し出がいくつか寄せられていると記されています。

人体蒸発に関する誤解

また、原爆に関連する都市伝説的な話として、「爆心地で直接閃光を浴びた人は一瞬で蒸発して消えてしまった」といった考え方が存在します。これは、一般的な誤解であり、医学的には否定されています。人体が蒸発することはなく、熱線の影響で炎症や潰瘍を引き起こすことはあっても、身体が一瞬で消えることはないとされています。

このように、人影の石は広島の歴史の重要な部分を担っており、訪れた人々に深い印象を与え続けています。

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