人面瘡 (小説)

人面瘡

『人面瘡』は、横溝正史による短編推理小説であり、金田一耕助シリーズの一つです。角川文庫には、本作が収められており、2003年にはTBS系列でテレビドラマ化もされています。物語は、金田一の岡山県での事件解決後の静養が突然、さらなる厄介な殺人事件に巻き込まれるところから始まります。

あらすじ

金田一耕助は東京での難事件を解決し、心身を休めるために岡山にやってきました。しかし、彼が訪れた「薬師の湯」で待ち受けていたのは、再びの難事件でした。ある夜、金田一は夢遊病の女性が宿の裏手から流れに向かって歩いていくのを目撃します。女性は宿の女中・松代で、彼女は後に睡眠薬自殺を図るのです。磯川の助けで一命を取り留めた松代は、不可思議な遺書を残していました。それには妹・由紀子を「2度も殺した」という内容が含まれており、その遺書の中には呪いのような言葉もありました。

遺書の内容は、姉妹間の複雑な感情を示唆していたのです。松代の腋の下には人面瘡があり、それが物語のキーワードとなります。そして、由紀子の遺体が「稚児が淵」で発見されることで、物語は更に闇を深めていきます。

事態は進み、松代の過去や由紀子との関係が徐々に明かされていきます。松代は、戦争によって焼け出された後、「薬師の湯」で女中として働き、貞二と深い仲になりましたが、妹由紀子の存在が彼女の心を苦しめていました。由紀子は、松代の婚約者であった譲治との関係を持ってしまい、更には彼をめぐる複雑な三角関係が形成されます。

人間関係の葛藤

物語は、人間の欲望や嫉妬、過去の影が絡み合いながら進行します。由紀子を狙った田代という男も登場し、彼の存在は物語にさらなる緊張感をもたらします。田代の過去や由紀子との関係も次第に明らかになり、彼女の罪の意識が深まることで、金田一にとって真相解明がますます難しくなるのです。

松代が夢の中での犯行を思い出す過程で、彼女の心の闇が浮かび上がります。幼少期からの複雑な姉妹関係や、戦争による心の傷は、彼女の行動に大きな影響を与えています。松代は妹に対して無形の罪業感を抱え続けており、それが人面瘡という形で表面化していたという点も注目すべきでしょう。

真相の開示

物語が進むにつれて、全ての登場人物の心情が絡み合い、真相が明かされていきます。最終的には、金田一の鋭い洞察力により、真実が解き明かされ、読者は様々な感情を抱くことでしょう。本作は、ただのミステリーにとどまらず、家族間の愛憎劇や人間の心の深淵、戦争が人々に与える影響を描いている作品であり、横溝正史の筆力が光る一編です。

結論

『人面瘡』は、金田一耕助シリーズの中でも特に心に残る作品の一つです。人間関係の複雑さと、肉親の絆がいかに人の行動に影響を与えるのかを考えさせられる内容が魅力です。事件の解決のみならず、登場人物たちの心理が丁寧に描かれている点も評価されるべきでしょう。

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