人面瘡 (小説)

あらすじ

名探偵・[[金田一耕助]]は、東京での難事件解決後、岡山県の静かな湯治場「薬師の湯」で静養していた。ある夜、彼は夢遊病に陥った女中・松代が宿の裏手から渓流へと消えるのを目撃する。その直後、松代が睡眠薬自殺を図る。彼女は遺書に「妹を二度も殺した」と書き残し、右の腋の下には人面瘡（人の顔の形をした腫物）が現れていた。

妹・由紀子の遺体が「稚児が淵」で発見され、金田一は事件の謎に挑む。由紀子は水死していたが、着物が発見されず、不審な点が残る。松代は夢遊病状態で由紀子を殺害したと考えているが、彼女にはアリバイがあった。

捜査が進むにつれて、松代と由紀子の複雑な過去が明らかになる。松代は過去に婚約者を亡くしており、その妹である由紀子は姉の婚約者を奪った過去があった。さらに、由紀子は湯治場の若旦那・貞二を誘惑し、姉妹の関係はさらに複雑になっていた。そんな中、由紀子の知人である田代が現れ、事件は意外な展開を見せる。

田代の証言によると、由紀子は姉に罪をなすりつけようと企て、そのために仕掛けを施していた。しかし、真犯人は意外にも、お柳（貞二の母）だった。彼女は由紀子の悪行を憎み、由紀子を溺死させたのだった。

事件解決後、金田一は松代の人面瘡が、双子の片割れが体内に残ったことによる奇形腫である可能性を指摘する。松代の妹に対する罪悪感も、実は双子の妹に対するものだったと推測される。その後、松代は手術を受け、貞二と結婚することが報告された。

登場人物

金田一耕助: 私立探偵。
磯川常次郎: 岡山県警警部。
貞二: 薬師の湯の一人息子。
お柳: 貞二の母。
松代: 住み込みの女中。貞二の婚約者。
由紀子: 松代の妹。
田代啓吉: 由紀子の知人。火傷の男。

原作と映像化

本作は、1949年に発表された原型作品を、1960年に金田一耕助シリーズとして改稿したものである。舞台を信州から岡山県に変更し、登場人物の設定も一部変更されている。2003年にはTBS系列でテレビドラマ化され、原作にはない要素が多数追加された。ドラマ版では、松代の過去や人面瘡の発生理由、事件の背景などがより複雑に描かれている。

原作とドラマ版の主な違い

舞台: 原作は岡山県だが、ドラマ版では東京・向島が舞台の一部となる。
人面瘡の位置: 原作では腋の下だが、ドラマ版では肩の前面に。
田代啓吉の役割: 原作では由紀子の知人だが、ドラマ版では事件とは関係ない人物。
由紀子の性格：原作では姉をこき使い、男を誘惑する悪女として描かれているが、ドラマでは姉に嫉妬する姉思いの妹として描かれている。
事件の動機と真相: 原作ではお柳が由紀子を殺害するが、ドラマ版ではさらに複雑な人間関係が絡んでいる。
* 人面瘡の解釈: 原作では奇形腫の可能性が示唆されるが、ドラマ版では妹の人格が宿っているという設定。

作品のテーマ

『人面瘡』は、人間の心の闇や因縁、そして過去の出来事がもたらす影響を描いた作品である。人間の複雑な心理描写や、意外な犯人像、そして悲劇的な結末は、読者に深い印象を与える。また、人面瘡という奇妙な現象を通して、人間の業や罪を表現している点も興味深い。

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