仁田三夫

仁田三夫は、1924年に埼玉県川口市で生まれた日本の写真家であり、同時に著名な考古学者でもある。埼玉県立浦和高等学校を経て、東京写真工業専門学校（現在の東京工芸大学）を卒業した。当初は西欧の風景写真を中心に撮影活動を行っていたが、やがてその探求の矛先は古代文明の源流であるエジプトへと向けられることになる。

1970年頃から、仁田は古代エジプトの遺跡、特に壁画の撮影に情熱を注ぎ始めた。エジプト政府の考古省から正式な許可を得て、ルクソールにある神殿の壁画やファラオの墓室、さらにはツタンカーメン王の墓に描かれた壁画など、貴重な文化遺産の記録に着手した。古代の壁画は、その保存状態や設置場所の環境から撮影が極めて困難であった。光量が不足し、かつ熱を発する照明は壁画を傷める恐れがあったためである。仁田はこうした難題に対し、当時としては画期的な非熱源の照明装置と大型の撮影装置を独自に開発・駆使することで挑んだ。この革新的な技術により、肉眼では捉えきれないような細部まで鮮明に記録することが可能となった。

壁画撮影に成功して以降も、仁田は古代エジプトの文物の撮影と学術的な研究のために、70回以上にわたりエジプトを訪れた。長期にわたる滞在を通じて、多数の貴重な文物や遺跡の画像を克明に記録するだけでなく、エジプトの首脳陣とも交流を深め、その研究基盤を確固たるものとした。

仁田三夫の貢献は、写真家としての卓越した技術にとどまらない。彼はヒエログリフをはじめとするエジプト学にも深く精通した考古学者としての顔も持っていた。その学術的な造詣と、写真による精緻な記録が高く評価され、国際的にも著名な存在となった。1980年代に入ると日本の考古学研究チームもエジプトでの活動を始めたが、2005年当時でも日本のエジプト考古学研究者は極めて限られた状況であり、仁田の存在は非常に貴重であった。

仁田の代表的な著作として、『古代エジプト壁画 新王国』（日本経済新聞社、1977年）がある。この写真集は、彼の革新的な撮影技術によって捉えられた貴重な壁画画像を多数収めており、その質の高さからカイロ博物館の公式ガイドブックのダイジェスト版としても採用されるほど、学術的かつ一般向けにも価値の高いものと認められた。

1970年代には、彼の『エジプト壁画写真集』が限定出版され、多くの反響を呼んだ。また、東京写真大学（現・東京工芸大学）厚木キャンパスに新設された「写大ギャラリー」のこけら落としとして、「仁田三夫 古代エジプト写真展」が開催されたことは特筆に値する。この展覧会には在京のエジプト大使も臨席し、注目度の高さを物語っていた。ここで初めて公開された1970年代初頭に撮影されたルクソールの古代エジプト壁画のオリジナルプリントは、大型原版写真ならではの圧倒的な精細さと、極めて困難な条件下での撮影を可能にした卓越した照明技術により、当時の写真関係者や考古学研究者たちに大きな衝撃と感銘を与えた。

仁田三夫は、『古代エジプト壁画』以外にも多数の著作や共著を発表しており、その活動の幅広さを示している。主なものとして、『Egypt』（コスモ出版、1991年）、『エジプト古代文明の旅』（講談社、1996年）、鈴木八司氏との共著『古代エジプトへの旅』（岩波書店、1983年）、『古代エジプト王・神・墓』（河出書房新社、2002年）、岩崎芸術社刊行の共著『古代エジプトの壁画』（1997年）、村治笙子氏、片岸直美氏らとの共著『図説エジプトの「死者の書」』（河出書房新社、2002年）、河出書房新社から刊行された共著『図説古代エジプト. 1』『図説古代エジプト. 2』（1998年）、片岸直美氏らとの共著『ナイルに生きる人びと』（山川出版社、1997年）、文庫版の『ルクソール讃歌』（筑摩書房、1995年）、初期の著作である『私のエジプト案内』（主婦の友社、1978年）などがある。これらの著作を通じて、仁田は古代エジプトの魅力を広く一般に伝え、その研究の普及に大きく貢献した。

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