今、失われたものを求めて

今、失われたものを求めて

概要

松山千春のオリジナルアルバム『今、失われたものを求めて』は、1983年5月21日にNEWSレコードからリリースされた、彼のキャリアにおける9枚目のオリジナル作品です。このアルバムは、当時の松山千春の音楽的な歩みにおいて、特に重要な節目である「転の時代」に制作された作品として位置づけられています。

制作背景と位置づけ

松山千春の音楽活動は、しばしば「起承転結」という言葉でその時期ごとの特色が語られます。本作が発表された1983年は、この区分における「転の時代」にあたるとされています。「転」の時期は、アーティストとしての表現スタイルや音楽性において、それまでの蓄積を踏まえつつも新たな探求や変化が生まれやすい時期と考えられます。『今、失われたものを求めて』は、まさにそのような変革期における彼の創造性や内面的な表現を映し出した記録とも言えるでしょう。当時の音楽シーンにおいて、松山千春がどのような姿勢で音楽に向き合っていたのかを知る上で、重要な鍵となるアルバムです。

関連楽曲の展開

アルバム発表後、収録曲の中から「電話」が特に選ばれ、同年6月にはシングルとして改めてリリースされました。アルバムに収録された楽曲がシングルカットされることは、その楽曲がアルバム全体の代表曲として、あるいは単独でも広くリスナーに届けたいという意図の表れです。「電話」は独立したシングルとして、アルバムの魅力を伝える役割も果たしました。
また、本作に収められている楽曲の一つ、「待たせたね」は、アルバムリリースから1年後の1984年に、日本の歌謡界で長く活躍する歌手、森進一氏によってカバーされました。森進一氏が自身のシングルとしてこの楽曲を取り上げたことは、オリジナルである「待たせたね」が持つ楽曲としての力、あるいは松山千春のソングライターとしての才能が、異なるジャンルや世代のアーティストにも響いた証と言えます。このカバーバージョンは、原曲とは異なる歌唱表現やアレンジによって、「待たせたね」という楽曲に新たな生命を吹き込み、その普遍性を改めて示す機会となりました。

後年の展開

『今、失われたものを求めて』は、発表された1983年当時だけでなく、時を経てからもその価値が再認識されています。1993年には、日本コロムビアが手掛けた『松山千春オリジナル・アルバム・コレクション』シリーズの一環として、Vol.05としてCDで再発売されました。これにより、発売から約10年が経過した後も、再び多くの音楽ファンがこのアルバムを手に取り、当時の松山千春の音楽世界に触れる機会が得られました。再リリースは、その作品が単なる過去の記録ではなく、時を超えて聴き継がれるべき価値を持っていることを示唆しています。

まとめ

アルバム『今、失われたものを求めて』は、松山千春のキャリアにおいて「転の時代」という重要な時期に生み出された作品であり、そこから生まれた楽曲「電話」のシングルカットや、「待たせたね」が森進一氏によってカバーされたことなど、多方面に影響を与えたアルバムです。1983年のオリジナルリリース、そして1993年の再リリースを経て、本作は松山千春の豊かな音楽史を語る上で欠かせない一枚として、現在も多くのリスナーに聴き続けられています。

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