今度生まれたら

小説『今度生まれたら』

内館牧子による『今度生まれたら』は、現代の老後をテーマにした物語であり、特に70歳の女性主人公・佐川夏江の人生の振り返りを中心に展開されています。この小説は、著者の他作品『終わった人』『すぐ死ぬんだから』に続く「老後小説」として位置づけられています。

70歳になった夏江は、これまでの人生をつぶさに見つめ直しています。彼女は進学、仕事、結婚などの重要な節目での選択を再評価し、自らの選択が正しかったのかを考えます。もはややり直しがきかない年齢に達した彼女が、どのように今を生きるべきかを模索する姿は、多くの読者に共感を呼ぶことでしょう。

生活を振り返った夏江は、結婚した夫の和幸との関係についても考察します。彼女は、共に過ごした中での感謝と同時に、自身が「今度生まれたらこの人とは結婚しない」という思いを抱くようになります。これは、彼女が長年抱えてきた「忖度」による生き様を象徴しているとも言えます。

また、物語の中では夏江の家族や周囲の人々との関係も鮮やかに描かれています。夫の和幸は、エリート社員であったがある事件により早期退職し、その後は倹約家として家庭に収縮しています。夏江の姉・信子も登場し、彼女は幸せな結婚生活を送っていますが、信子の夫、芳彦に別の恋人ができ、離婚を切り出されるという波乱も待ち受けています。

さらに、夏江の子供たちもそれぞれの人生に悩みを抱えています。長男の剛はエリート商社マンとしての道を歩みつつ、家庭に居場所を失って別居する決意をします。一方、次男の建は、ギター作りに情熱を注ぐ若者で、夢追いかける姿が描かれています。

この作品は、2022年に松坂慶子主演でテレビドラマ化され、NHKのプレミアムドラマとして放送されました。ドラマでも原作と同様に家族の形や人間関係が描写され、多くの視聴者の心に響きました。

物語は、個々の選択から生まれる人生の総括を示しています。特に、夏江のように人生の後半を迎えた人々がどのように未来を見据えて生きていくのか、その葛藤と成長の物語が、読者や視聴者に深い感動を与えることは間違いありません。今後も『今度生まれたら』は、多くの人々に読まれ、語り継がれることでしょう。

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