今村好信

今村好信：技術者人生と海軍経験、そして『日本魚雷艇物語』

今村好信（1919年生まれ）は、日本の技術者として、そして太平洋戦争期の海軍技術将校としての経験を持つ稀有な人物です。日立製作所での長年の活躍、そして晩年に発表した『日本魚雷艇物語』は、彼の生涯と技術者としての信念を物語っています。

愛媛から東京帝大へ、そして海軍へ

愛媛県で生まれた今村は、旧制中学校、松山高等学校を経て、1942年に東京帝国大学工学部機械工学科を卒業。太平洋戦争下の日本において、彼の技術者としての才能は海軍に注目されました。

大学卒業後、日立製作所に入社したものの、直ちに海軍の短期現役技術科士官に志願。見習尉官としての訓練を経て、造機技術大尉として呉海軍工廠造機部機械工場や艦政本部で勤務しました。この間、新兵器であった魚雷艇のエンジン開発という重要な任務に携わったのです。最先端技術を駆使し、国の防衛に貢献した日々は、彼の技術者としての経験に大きな影響を与えました。戦後は予備役編入となり、日立製作所へ復帰しました。

日立製作所での活躍と技術者人生

戦後、日立製作所に戻った今村は、電子管、照明、そして半導体事業など、幅広い分野で活躍します。取締役事業電子本部長を務めた後、日立機電工業へと転出。専務取締役、社長を経て、相談役、名誉相談役と、日立グループにおいて長きにわたって重要な役割を担いました。これは、彼の技術者としての能力とリーダーシップの高さを証明するものです。

戦後から晩年、そして『日本魚雷艇物語』

日立製作所での成功と並行し、今村は自身の戦争体験や海軍時代の知見を活かし、2003年に『日本魚雷艇物語―日本海軍高速艇の技術と戦歴』を著しました。この本は、日本の魚雷艇開発の歴史を技術的な側面から詳細に記述しただけでなく、当時の状況や関係者の証言を交え、歴史的な視点からも貴重な記録となっています。同書は光人社より出版され、のちに光人社NF文庫からも刊行されました。

この著作は、単なる技術解説にとどまらず、当時の日本の技術力、海軍の戦略、そして戦争の悲惨さを多角的に表現した、多くの読者を魅了する作品となりました。 戦時中の体験、海軍時代の同僚や学友、そして日立製作所の同僚たちの協力を得て完成した本書は、今村氏の貴重な人生経験と、日本の技術史、そして戦争史において重要な一冊となっています。

その他の著作

『日本魚雷艇物語』以外にも、『わだち』前編や『我が家の猫物語―共にくらして半世紀』（私家本）、そして未出版の『わだち』後編といった著作も残しており、多様な関心と豊かな人生観がうかがえます。

まとめ

今村好信の生涯は、技術者としての卓越した能力と、戦争を経験した世代ならではの深い洞察を示すものです。『日本魚雷艇物語』は、彼の技術者人生と戦争体験を凝縮した、貴重な記録であり、後世に残すべき遺産といえるでしょう。彼の経験と業績は、日本の技術史、そして戦争史を理解する上で重要な手がかりとなります。 今村好信という人物を通して、日本の技術革新と戦争の現実を深く知ることができるでしょう。

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