今町会館ビル火災

「今町会館ビル火災」は、1978年（昭和53年）3月10日午前0時過ぎに発生した、新潟県新潟市（現在の同市中央区）の繁華街、古町地区にあった雑居ビルでの火災事故です。この火災により、11名が尊い命を失い、2名が負傷しました。

発生状況

火災現場となった今町会館ビルは、古町のメインストリートから一本入った東新道に位置する、鉄骨造り3階建ての建物でした。火の手は、ビルの2階に入居していたスナック「エル・アドロ」の客用出入り口付近から上がりました。火災の原因は、スポットライトの電源コードが天井裏で漏電し、周囲の合板に燃え移ったこととされています。

出火当時、スナック店内には20人の客と3人の従業員がいました。調理場にいた従業員の一人が火事に気づき、1階の割烹店に消防への通報を依頼しました。スナックの支配人も消火を試みましたが、火の勢いはすでに強く、初期消火は間に合いませんでした。

火災は、内装に使用されていた燃えやすい壁材を伝って急速に広がり、出火場所である出入り口付近から店内へ、さらに階段を伝って3階へと延焼しました。これと同時に、燃焼によって発生した有毒な煙やガスが店内に充満し、人々の避難を極めて困難にしました。

避難の困難

「エル・アドロ」の唯一の避難経路は、偶然にも火災が発生した出入り口でした。このため、火災に早期に気づき、速やかに脱出できた客や従業員は難を逃れることができましたが、炎や煙の広がりを察知するのが遅れた人々は、逃げ道を失ってしまいました。また、店内にいた客の多くが飲酒状態にあったことも、冷静な判断力や迅速な行動を鈍らせ、避難を遅らせる大きな要因となりました。

消防隊が現場に到着した時点でも、建物内部にはまだ逃げ遅れた人々がいる状況でした。最終的に、この時取り残されていた11名全員が死亡し、2名が負傷するという悲劇的な結果となりました。特に、店の奥のトイレに逃げ込んだ人たちの間では、生死が分かれる瞬間がありました。窓から飛び降りて脱出を試みたうち、最初に飛び降りた3人は無事でしたが、続いて飛び降りた4人は命を落としており、ほんのわずかなタイミングが生死を分けたことを物語っています。

消防活動と被害状況

現場周辺の東新道は道幅が狭く、古町へと続く通りも細かったため、消防車両の進入や消火活動は難航しました。しかし、隣接する建物への延焼は食い止められ、火災は午前1時前には鎮火しました。建物の被害自体は、火元となった2階の約3分の2と3階のごく一部にとどまり、1階は無事だったことから、「半焼」と判定されました。

多数の死者が出た要因と教訓

建物への物理的な損傷が比較的軽微であったにもかかわらず、多数の死者が出た主な原因は、複数の要因が複合的に作用したためと考えられます。特に、発生した大量の有毒ガス、そして火元が建物の構造上唯一の避難経路であった出入り口のすぐそばだったこと、さらに初期消火がわずかに間に合わなかったことが、多くの犠牲者を生む結果につながりました。

この火災は、特に雑居ビルにおいて、避難経路を複数確保しておくことの重要性を、消防関係者や建物の管理者たちに改めて強く認識させる契機となりました。全国的に見ると、犠牲者数が他の大規模火災と比較して少ないため、あまり広く知られていない火災事例かもしれません。しかし、雑居ビルにありがちな出火対策の甘さや防火管理の責任の所在が不明確といった問題点を内包しつつ、小規模な建物で二桁の死者を出してしまった点において、教訓的な、そして特異な事例として語り継がれています。

その後

火災後、今町会館ビルは解体され、跡地には別のビルが建設されました。その後、そのビルも老朽化により解体され、現在では民間が運営する駐車場として利用されています。事故から長い年月が経過し、周辺の再開発も進んでいるため、当時の建物の外観や街並みの面影はほとんど残されていません。しかし、事故当時から隣接して営業していたスナックが、建物は建て替えられずに近年まで営業を続け、今も看板が残っていることから、かろうじて事故現場の位置を推測することができます。

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