以津真天

以津真天：太平記に由来する怪鳥の謎

鳥山石燕の妖怪画集『今昔画図続百鬼』に描かれる怪鳥、以津真天。その姿形や生態、そして名前の由来を探ることで、この怪異な鳥の謎に迫ってみましょう。

太平記における怪鳥の記述

以津真天のルーツは、室町時代の軍記物語『太平記』巻12「広有射怪鳥事」に記された怪鳥の記述にあります。建武元年（1334年）、疫病が流行した際に、紫宸殿の上空に毎晩のように現れ、「いつまで、いつまで」と鳴き叫んだという怪鳥。その不気味な鳴き声と異様な姿は、人々を恐怖に陥れました。

この怪鳥退治を依頼されたのは、弓の名手として知られた隠岐次郎左衛門広有（真弓広有）。頼政の鵺退治になぞらえ、広有は特製の鏑矢で怪鳥を射止めました。『太平記』では、怪鳥は人間の顔を持ち、曲がった嘴と鋸のような歯、蛇のような体、剣のように鋭い爪、そして翼長1丈6尺（約4.8メートル）もの巨体と、詳細な描写がなされています。しかし、怪鳥には明確な名前は記されておらず、「怪鳥」としか表現されていません。

以津真天の命名と絵画における表現

『今昔画図続百鬼』において、この怪鳥に「以津真天」という名が与えられたのは、鳥山石燕によるものです。恐らく、怪鳥の鳴き声「いつまで、いつまで」を元に命名されたと考えられます。江戸時代の武者絵にも、この怪鳥を題材とした作品がありますが、「いつまで」という名称が使われた例は見当たりません。これらの絵画では、怪鳥の姿は様々で、化鳥の姿や黒雲といった、その存在感を示唆する表現が用いられています。

昭和以降の解釈と考察

昭和以降の妖怪研究では、「いつまでん」という読み方で紹介されることが多くあります。戦乱や飢餓で亡くなった者の遺体が放置されると、その傍らに現れ、「いつまで放置するのか」と問うかのように「いつまで、いつまで」と鳴くという解釈や、亡くなった者たちの怨霊が鳥の姿で現れたという解釈も存在します。これらの解釈は、怪鳥の鳴き声と、当時の社会状況を結びつけることで、より深く以津真天の物語を理解しようと試みた結果と言えるでしょう。

まとめ

以津真天は、『太平記』に記された怪鳥を起源とし、鳥山石燕によって『今昔画図続百鬼』で「以津真天」と名付けられました。その異様な姿と不気味な鳴き声は、人々の恐怖心を煽り、時代を超えて語り継がれる妖怪となりました。様々な解釈が存在する以津真天ですが、その謎めいた存在感は、現代においても人々の想像力を掻き立て続けています。太平記の記述、江戸時代の絵画、そして昭和以降の解釈を総合的に考察することで、以津真天の持つ多様な側面を理解することができるでしょう。 様々な文献や解釈から、以津真天の謎を解き明かす試みは、これからも続いていくことでしょう。

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