仮想発電所

仮想発電所（VPP）とは

概念と背景

仮想発電所（Virtual Power Plant、略称VPP）とは、一箇所に集中しているわけではない多様な分散型エネルギー源（Distributed Energy Resources、DER）を、情報通信技術（ICT）やモノのインターネット（IoT）などを活用して束ね、一つの発電所のように機能させるクラウドベースのシステムです。これは、従来の大規模集中型発電所に代わる次世代の電力供給インフラとして、世界的に注目を集めています。

東日本大震災以降、エネルギー供給の安定性や需給バランスに対する意識が高まり、太陽光や風力といった再生可能エネルギーだけでなく、家庭用燃料電池、蓄電池、電気自動車、さらには節電による余力（ネガワット）など、需要家側に存在する分散型電源の導入が進みました。これらの小規模な電源を効果的に活用し、電力システム全体の安定化に貢献するため、VPPの構築が進められています。

仕組みと構成要素

VPPは、太陽光発電、風力発電、小水力発電、バイオマス発電、コージェネレーション（熱電併給システム）、非常用発電機、蓄電池システムなど、様々な種類の電源や設備を組み合わせることで成り立っています。これらの多様なDERは、需要に応じて柔軟な調整が可能なものや、そうでないものを含んでいます。アグリゲーターと呼ばれる事業者が、これらの分散した設備を中央で遠隔監視・制御し、全体として一つの最適化された発電リソースとして管理します。これにより、個々の設備だけでは難しかった電力供給能力の向上や、需給バランスの維持が可能になります。

機能とメリット・デメリット

VPPの主な機能は、集約したDERの能力を電力供給に活用することです。特に、電力需要が最大となるピーク時の供給力増強や、需要変動に合わせて発電量を迅速に調整する負荷追従能力に優れています。多様な電源を組み合わせることで、従来の発電所に比べて高効率かつ柔軟なシステムを実現できます。

一方で、多くの分散した設備を統合・制御するため、システムの複雑化は避けられません。高度な最適化技術、正確な制御、そして安全な通信ネットワークが不可欠となります。これらの技術的な課題への対応が、VPP普及における重要なポイントとなります。

電力市場と補助サービスにおける役割

VPPは、単に電力を供給するだけでなく、卸電力市場でのエネルギー取引や、送電網の安定性を保つための様々な補助サービス（アンシラリーサービス）を提供します。個々の小規模なDERは単独では市場に参加することが困難ですが、VPPとして束ねられることで、市場での売買や系統運用者へのサービス提供が可能になります。これにより、DERの価値が向上し、その導入を促進する効果も期待できます。

提供される補助サービスには、電力系統の周波数を一定に保つための調整や、急な需要変動に対応するための予備力の供給などがあります。これらのサービスは、電力の品質維持や系統全体の信頼性確保に不可欠です。

将来的に、再生可能エネルギーの割合が増加し、従来の火力発電所による調整力が低下するカーボンフリーな電力網においては、VPPのような分散型リソースによる調整力がますます重要になります。例えば、電気自動車をVPPの一部として活用し、充電・放電を制御することで系統安定化に貢献するVehicle to Grid（V2G）技術や、ヒートポンプやエアコンなどの柔軟な需要設備を束ねて制御する取り組みも進められています。

世界各国の取り組み

日本

東日本大震災以降のエネルギー情勢の変化を受け、需要家側の電源活用が進んでいます。2021年4月には、電力需給調整市場が創設され、VPPの活用拡大が見込まれています。

米国

市場規制緩和が進む米国では、VPPは電力供給だけでなく、需要応答（DR）による需要側の管理や系統信頼性確保にも貢献しています。ユタ州、ハワイ州、バーモント州、コロラド州などで、蓄電池や太陽光、EV充電器などを統合した具体的なVPPプロジェクトが進行しています。公共電力事業者によるVPP構築の検討も始まっています。

欧州

欧州では、再生可能エネルギーの大量導入が進んでおり、VPPは系統安定化の鍵となっています。ドイツを中心に、太陽光、風力、バイオガスなどを組み合わせた複合発電所としてのVPP実証や、大規模なアグリゲーター事業者によるVPP運営が行われています。イギリスでは家庭用蓄電池などを活用したVPPプロジェクトが展開されています。

オーストラリア

南オーストラリア州では、テスラ社が多数の住宅に設置された太陽光発電と蓄電池を統合した、大規模なVPPプロジェクトを進めています。これにより、再生可能エネルギーの有効活用と系統安定化を目指しています。

市場規模

調査会社によると、世界のVPP容量および市場規模は近年大きく拡大しており、今後も成長が予測されています。VPPは、既存の送配電網を活用しながら、高度なソフトウェア制御によって電力需給を調整し、系統利用者と事業者の双方に価値をもたらす「エネルギーのインターネット」を象徴する存在として、その重要性を増しています。

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