伊藤和夫

伊藤和夫：受験英語界の巨星、その生涯と構文主義

伊藤和夫（1927年 - 1997年）は、駿台予備学校で約30年間英語科講師を務め、「受験英語の神様」とまで呼ばれた、日本の英語教育界における重鎮です。彼の教育方法論である「構文主義」は、受験英語界に大きな影響を与え、多くの受験生を難関大学合格へと導きました。

生い立ちと学歴

長野県に生まれた伊藤は、東京都立第五中学校（現在の東京都立小石川中等教育学校）を卒業後、第一高等学校（旧制）に進みました。興味深いことに、彼が旧制高校を受験した1944年は、英語が試験科目から除外された特例の年でした。これは、予備校で受験英語を教えることを天職とした伊藤にとって、皮肉な巡り合わせと言えるかもしれません。第一高等学校卒業後、東京大学哲学科に進学。病気療養期間を挟みながらも、1953年に卒業論文「スピノザのエチカ」を提出し、同大学を卒業しました。

駿台予備学校での活躍

大学卒業後、山手英学院での講師を経て、1966年に駿台予備学校に移籍。奥井潔の紹介がきっかけでした。駿台では、英語科の専任講師として教鞭を執り、1990年度までは英語科主任も務めました。また、学校法人駿河台学園の理事にも就任し、駿台の経営にも携わりました。1997年に逝去するまで、駿台予備学校での教育に情熱を注ぎ続けました。

構文主義とは

伊藤の提唱した「構文主義」は、英文法の知識を英文解釈に応用する読解法であり、駿台予備学校英語科の伝統となりました。彼の構文主義は、単なる「くじら構文」や「so～that構文」の暗記ではなく、文章全体を構造的に理解することを目指しました。返り読みを否定し、英文を前から順に理解する「直読直解」を重視。品詞分解も、英文の構造を理解するための手段として必要最低限に留め、文章を細分化しすぎることの弊害を説きました。

著作と思想

伊藤は数多くの参考書や問題集を執筆し、受験生から圧倒的な支持を得ました。『英文解釈教室』や『英文法教室』は、長年にわたり受験英語の定番として読み継がれています。これらの著作を通じて、伊藤は英語学習の本質を伝えようとしました。表面的 なテクニックに走らず、英文法と構文の基礎をしっかりと理解することの重要性を説き、論理的な思考力と読解力を養うことを目指しました。

人柄

生涯独身であり、その人生を英語教育に捧げました。彼の授業は、明快な解説と熱意あふれる語り口で、多くの受験生を魅了しました。また、生徒からの質問には丁寧に答え、親身な指導を行ったことでも知られています。教え子からは、先生というよりも、尊敬できる人生の先輩として慕われていました。

受験英語界への貢献

伊藤和夫は、受験英語界に多大な貢献をしました。彼の提唱した構文主義は、受験英語の指導方法に革命をもたらし、多くの英語講師に影響を与えました。また、数々の著作を通じて、英語学習の指針を示し、受験生を合格へと導きました。まさに、「受験英語の神様」と呼ぶにふさわしい、偉大な教育者でした。

主な著作

『構文別英文演習』（奥幸雄と共著、南雲堂）
『新・英文解釈体系』（有隣堂）
『基本英文七〇〇選』（鈴木長十と共編、駿台文庫）
『英文解釈教室』（研究社）
『英文法教室』（研究社）
『英語長文読解教室』（研究社）

もう一度検索