伊藤成彦

伊藤成彦：平和と民主主義を希求した知の巨人

伊藤成彦（1931年10月24日-2017年11月29日）は、20世紀後半から21世紀初頭にかけて活躍した日本の政治学者にして文芸評論家である。中央大学名誉教授の肩書きを持ち、その生涯は学究生活のみならず、社会運動や平和運動への積極的な関与によって彩られた。

石川県金沢市に生まれた伊藤は、東京大学文学部ドイツ文学科を卒業後、同大学大学院に進学。国際関係論や社会運動・思想史を専攻し、修士課程および博士課程を修了した。在学中には東京大学新聞の編集長を務めるなど、学生時代から高いリーダーシップを発揮していたことが伺える。

1973年に中央大学商学部教授に就任。その後、学術研究と並行して、精力的に社会運動に関わった。1980年にはローザ・ルクセンブルク研究国際協会を設立（1985年に「ローザ・ルクセンブルク国際協会」に改称）、同協会を牽引する中心人物の一人として活躍した。また、1989年には「朝鮮政策の改善を求める会」の世話人、2005年には「軍縮市民の会」の結成メンバーに加わるなど、日韓・日朝関係の改善や平和構築を目指した活動に積極的に参加している。

伊藤の思想は、平和主義と民主主義、そして社会正義への強い信念に基づいていた。その信念は、数々の発言や著作物を通して明確に示されている。1968年の金嬉老事件では、他の知識人と共に金嬉老を訪問し、その状況を目の当たりにして涙を流したという逸話は、伊藤の人間性の一端を垣間見ることができる。1970年には雑誌『文学的立場』において「内向の世代」批判を展開し、時代の閉塞感を鋭く批判した。

日韓・日朝関係の改善においては、特に積極的な発言を繰り返した。北朝鮮との国交正常化交渉の中断については、日本側の対応を批判。拉致問題についても、証拠がないことを指摘し、問題の矮小化を主張した。さらに、日本の植民地支配の責任を強く指摘し、済州島四・三事件に対する謝罪を訴えた。また、外国人に参政権を与えるべきだと主張するなど、既存の政治体制や常識を揺るがすような発言も少なくなかった。

これらの発言は、常に議論を呼び、賛否両論を巻き起こした。しかし、伊藤は自分の信じる正義を貫き、常に平和と民主主義を訴え続けた。2009年には、金大中元韓国大統領の追悼式で追悼の辞を述べるなど、国際的な視野も持ち合わせていた。

伊藤の活動は、単なる発言や運動にとどまらなかった。膨大な数の著作も残している。単著として『「近代文学」派論』、『共苦する創造力 現代を問う文学』、『闇に育つ光 日韓民衆連帯運動・私の記録』など、多岐にわたる分野で著作を発表。ローザ・ルクセンブルクに関する研究書も数多く執筆しており、その深い学識と知性も窺える。さらに、翻訳活動にも携わり、『ローザ・ルクセンブルク その思想と生涯』など、重要な著作を日本語に紹介した。

2017年に逝去した伊藤成彦。その生涯は、平和と民主主義を希求し続けた、知の巨人の生涯であった。彼の思想と活動は、現代社会においても、多くの示唆を与え続けている。彼の著作は、現代社会における平和と民主主義について深く考えるための貴重な資源となるだろう。増田都子の活動への支援や、NPO法人ピースデボでのアドバイザー就任なども、彼の平和運動への揺るぎない姿勢を示していると言える。伊藤成彦の残した功績は、これからも長く記憶されるに違いない。

もう一度検索