佐藤尚

東洋大学陸上競技部を箱根駅伝初優勝に導いた名コーチ

佐藤尚（さとうひさし）氏は、1953年生まれ、秋田県出身の陸上指導者です。東洋大学陸上競技部でコーチを務め、同大学を箱根駅伝初優勝に導いたことで知られています。秋田工業高校時代は800mで活躍し、全国高校総体にも出場しました。東洋大学に進学後はマネージャーに転身し、箱根駅伝の出場経験はありません。

大学卒業後は地元の建設資材会社に勤務する傍ら、母校の秋田工業高校陸上部コーチを務めました。1994年に東洋大学の長距離部門監督として上京し、本格的に指導者の道を歩み始めます。当時の東洋大学は箱根駅伝で下位に低迷していましたが、佐藤氏の指導により徐々に力をつけ、1997年の第73回大会では12年ぶりのシード権を獲得しました。1999年の第75回大会でもシード権を奪還し、チームを上位へと押し上げました。

特に第75回大会では、10区にエース格の酒井俊幸選手を起用する大胆な戦略が功を奏しました。当時、10区にエースを投入するチームは少なかったのですが、佐藤氏は選手の調子を見極める確かな目を持っていました。しかし、2001年からの2年間は予選会を突破できず、箱根駅伝への出場を逃すという苦しい時期も経験しています。2002年からはコーチとしてスカウト活動にも力を入れ、全国各地を飛び回りました。その中で、酒井選手からの情報提供をもとに、柏原竜二選手をスカウトすることに成功しています。

2008年、チームの不祥事により監督が辞任したため、佐藤氏は急遽監督代行としてチームを率いることになりました。チーム状態が不安定な中、佐藤氏は選手たちに「出場させてもらえることに感謝しよう」と声をかけ続けました。そして、2009年の第85回大会では、柏原選手の5区での逆転劇や、6区での選手交代などの大胆な策が当たり、東洋大学は悲願の総合優勝を果たしました。これは、出場から76年目、67回目の挑戦で、箱根駅伝史上最も遅い総合優勝でした。

優勝後、佐藤氏は監督代行を退き、再びコーチとしてスカウト活動に専念します。その後、酒井俊幸氏が監督に就任し、東洋大学は強豪校としての地位を確立しました。佐藤氏の教え子には、2016年リオデジャネイロオリンピック男子マラソン競技代表の石川末広選手、北島寿典選手、1万メートル代表の設楽悠太選手らがいます。特に、石川選手と北島選手は高校時代は無名だったため、佐藤氏のスカウト能力の高さが改めて注目されました。

佐藤氏は、選手の才能を見抜く力、大胆な戦略、そして何よりも選手を信じる心を持っていました。彼の指導は、多くの選手たちの成長を支え、東洋大学陸上競技部を強くしただけでなく、多くの人々に勇気と感動を与えました。

参考文献

陸上競技マガジン（ベースボール・マガジン社）及び月刊陸上競技（陸上競技社）。いずれも2009年2月号
スポーツ報知2009年1月4日最終面

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