何の病気で死ぬのだろうか

《何の病気で死ぬのだろうか》

フランシスコ・デ・ゴヤの《何の病気で死ぬのだろうか》（1797-1799年）は、銅版画の形式で表現された作品であり、版画集《ロス・カプリーチョス》の第40番に位置づけられています。この作品は、医療の無知や愚かさをテーマにし、特に当時の医者たちの無分別さを非難する目的で制作されました。全体として80点の版画で構成されるこのシリーズは、ロバをモチーフとする作品群の一部であり、マドリードのプラド美術館に所蔵されている準備素描が残されています。

作品の概要

この版画では、ロバが人間の姿で描かれ、病床に横たわる院内の男性に寄り添っています。ロバはフロックコートを身にまとい、お洒落な黒い靴を履き、右前足には大きな宝石の指輪がはめられています。このロバが医者の役割を果たしているようで、頑固に見える表情で患者の脈をとっています。この姿は、患者の状態が深刻であることを示唆するもので、疲れ切った表情を見せる患者の横に、カーテン越しに家族が待っている様子が描かれています。

ロバの姿は古典的に「無知」や「愚鈍」を象徴しており、ゴヤはこの動物を通じて医者の非能力を強調しています。スペイン国立図書館の資料からは、野蛮で無知な医者の言葉に耳を傾けることが有害であることを暗示しています。また、ロバが指輪を外さない姿は、医者が社会的地位を誇示するために用いる慣習への皮肉でもあります。

医学の背景

18世紀は医学が飛躍的に進展した時代でしたが、スペインでは未だに未熟な治療を行う医者も存在しました。アンドレス・ピケールのように進歩的な医師が国王に仕えたり、カルロス3世によって医学教育が改革されたものの、治療技術の向上が即座に全ての医者に行き渡ったわけではありません。作家フランシスコ・デ・ケベードが指摘したように、医師の訓練は不十分でした。このことから、一般大衆が医療に対して抱く不信感が根深いものであったことが伺えます。

着想の源と影響

《何の病気で死ぬのだろうか》の構図は、ゴヤの初期作品《夢》に触発されたと考えられています。この作品でも、医者がロバの姿で描かれ、その無和の象徴が強調されています。また、作品の中に描かれた患者が実在の人物である可能性も指摘されています。美術史家のエンリケ・ラフエンテ・フェラーリによると、この患者はアルバ公爵ホセ・アルバレス・デ・トレド・オソリオ・イ・グスマンであり、若い女性はその妻であるマリア・デ・シルバだと言われています。こうした描写は、ゴヤが医学の無力さとそれがもたらす結果を辛辣に批判していることを意味しています。

作品の受容と影響

この版画は、ゴヤが死去後に息子や孫に受け継がれ、その後、バレンティン・カルデレラによって収集されました。最終的に、1886年にはプラド美術館に収蔵されることになりました。重厚な内容を持つこの作品は、以後もゴヤの批判精神を体現する重要な存在として認識されています。医師や医療に対する疑念や批判は、今もなお人々の間に残るテーマであり、ゴヤはその精神をこの作品で見事に伝達しています。

これらの要素が《何の病気で死ぬのだろうか》を、実社会に対する鋭い批判の作品として位置づけているのです。

もう一度検索