何者

中編推理小説『何者』の魅力

江戸川乱歩が著した短編推理小説『何者』は、1929年に『時事新報』夕刊で連載され、約100ページからなる魅力的な作品です。この物語は、著者の代表的なキャラクターである明智小五郎が登場するシリーズの一環をなしており、緊張感ある推理が繰り広げられます。物語の語り部である「私」は、友人たちと共に鎌倉で学生生活を楽しんでいる中で、思わぬ事件に巻き込まれていきます。

あらすじ

「私」は、友人の甲田伸太郎や、さらに他の友人である結城弘一と共に、鎌倉で最後の夏休みを過ごしていました。ある夜、弘一が父親の書斎で不審な男に狙撃され、命を取り留めるものの重傷を負うという事件が発生します。強盗が侵入し、金銭よりも意味不明な金色の物品を盗んだことが、事態を一層奇妙にしています。

弘一は持前の探偵趣味を活かし、入院中に情報を集めつつ、事件の真相に迫ります。「私」や波多野警部と協力しながら推理を進める中、事件の背後に潜む表面的ではない真実を明らかにしようと奮闘するのですが、そこに突然現れた謎の男・赤井の存在が、彼の推理を根本から覆してしまいます。

主な登場人物

• - 私（松村） - 本作の語り部であり、主人公。
• - 甲田伸太郎 - 「私」の友人で、事件の第一発見者です。
• - 結城弘一 - 被害者であり、「私」の友人。探偵に憧れを持っています。
• - 結城志摩子 - 弘一の従妹であり、許嫁。
• - 常さん - 結城家の下男で、事件発生時に奇妙な行動を見せます。
• - 波多野警部 - 事件解決に尽力する敏腕警部。
• - 赤井 - 事件に関わる謎の男で、弘一同様に探偵趣味を持っています。

作品の評価と背景

乱歩は本作について、「一つの独創があり、自分でもよくできた作品と思っていたが、全く反響がなかった」と言っています。作中には「明智小五郎探偵談」という架空の書物が登場し、弘一がその内容についてけなす場面が描かれています。これは、当時すでに確立されたキャラクターであった明智小五郎に端を発するもので、今後の小説展開にも影響を与えました。

真犯人が明らかになる最終章の見出しは、「THOU ART THE MAN」と名付けられており、これはエドガー・アラン・ポーの短編小説『お前が犯人だ』と同じタイトルで、文学への深い敬意がうかがえます。

テレビドラマ版

2016年にNHK BSプレミアムで放送されたドラマ版『シリーズ・江戸川乱歩短編集II 妖しい愛の物語 何者』では、原作とは異なる展開が行われました。原作では赤井の正体は最後まで明かされませんが、ドラマ版では視聴者に早い段階からその正体が示されます。

まとめ

『何者』は、江戸川乱歩の多彩な表現力が光る推理小説であり、明智小五郎の魅力が最大限に発揮されています。友人たちとの絆や、探偵趣味を通じて繰り広げられる人間模様は、時代を超えて多くの読者に親しまれています。

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