俺の屍を越えてゆけ

『俺の屍を越えてゆけ』

『俺の屍を越えてゆけ』は、1999年にソニー・コンピュータエンタテインメントからPlayStation用ロールプレイングゲームとして発売されました。通称「俺屍（オレシカ）」と呼ばれ、ゲームデザインは桝田省治氏、開発はアルファ・システムが担当しています。平安時代の日本を基調とした独特の世界観や個性的なキャラクター、そして「健康度」に代表されるオリジナルのゲームシステムで、多くのプレイヤーに強い印象を与えました。タイトル名は、ゲームデザインを担当した桝田氏が、知人の編集者との会話中に聞いたフレーズから着想を得て命名されたと伝えられています。

本作は後にゲームアーカイブスでのダウンロード配信が開始され、2011年にはPS版の主要スタッフが集結してPSP向けにリメイク版が発売。さらに2014年には続編となる『俺の屍を越えてゆけ２』が登場するなど、長く愛されるシリーズとなりました。

哀切な物語

物語は平安時代、鬼たちの襲撃によって京の都が壊滅寸前となる状況から始まります。帝の命を受けた勇士たちが鬼の首領・朱点童子の討伐に向かいますが、その力に敵わず全滅しました。そんな中、源太とお輪という夫婦が朱点童子の居城へと挑みますが、源太は罠にかかり討ち死に。お輪もまた、幼い我が子を盾に囚われの身となります。

朱点童子はお輪に服従を迫り、子の解放と引き換えに幼子に二つの恐ろしい呪いをかけます。一つは人間を遥かに超える速さで成長し、わずか一年半から二年ほどで命尽きる「短命の呪い」。もう一つは、人間との間に子を成すことができなくなる「種絶の呪い」でした。

しかし、地上の有様を憂いていた神々は、この一部始終を目撃し、呪いをかけられた源太とお輪の幼子に救いの手を差し伸べることを決めます。神々の助けを受けたその子孫は、天界から遣わされた案内役「イツ花」のサポートを受けながら、神との間に子を成すことで一族の血を繋いでいくことになります。そして、朱点童子を打倒し、一族にかけられた呪いを解くという悲願を達成するまで、彼らの途方もない戦いが続いていくのです。

世代を越えて絆を紡ぐシステム

ゲームは、呪いをかけられた「源太とお輪の子」（初代当主）にプレイヤーが名前を付けることから始まります。一族の目的は、様々な迷宮を探索して敵を倒し、「奉納点」を獲得すること。この奉納点を用いて、より強い「神」と交神の儀を行い、優れた能力を持つ子孫を残すことで一族を強化し、最終的に父の仇である朱点童子を倒すことです。親から子へ、子から孫へと世代を重ねながら強くなっていくこのシステムは、競走馬育成シミュレーションゲーム『ダービースタリオン』シリーズとの類似性が指摘されることもあります。

プレイヤーの遊び方に合わせた四種類のゲームモードが用意されており、それぞれエンディングまでの所要時間や難易度が異なります。一見、自由度が高いように思えますが、迷宮の探索時間には制限があり、また何よりも一族が「短命の呪い」によって一年半から二年という短い生涯しか送れないという絶対的な時間的制約が存在します。この時間は、ゲームの進行において常に意識すべき重要な要素であり、同じ桝田省治氏が関わった『リンダキューブ』や『勇者死す。』などにも見られる特徴です。なお、朱点童子を倒さないまま一族の人数が256人に達すると、強制的にエンディングとなりゲームが終了します。

「短命の呪い」による寿命は短いですが、ゲームシステム上は「健康度」が0にならない限り生存できるため、工夫次第では数十年生き続けることも技術的には可能です。ただし、健康度が極端に低下した状態では能力が激減し、攻略上のメリットはほとんどありません。また、一族が全滅するとゲームオーバーとなりますが、適切に交神を行い子孫を残していれば、この事態はほとんど起こりません。

プレイヤーが主人公一族の生年月日を入力する際は、発売当時の状況に合わせて和暦（昭和または平成）が用いられます。

京を拠点に迷宮を探索

ゲームの拠点は都「京」のみで、他の町は登場しません。鬼たちの襲撃により荒廃した京は、初期には利用できる施設が限られています。プレイヤーは迷宮で得た資金を「復興」への投資に使うことで、商業、宗教、娯楽、公共といった各部門を発展させ、商店の品揃えを増やしたり、交神に必要な奉納点を減らしたり、様々な恩恵を受けることができます。京では、公式討伐隊選考試合や祭、疫病の流行など、多様なイベントも発生します。

探索の舞台となる迷宮は、鳥居千万宮や相翼院など、日本の伝承や歴史的建造物をモデルにしたと思しき独特の雰囲気を持つ場所が多数登場します。各迷宮には強力なボスが待ち受けており、一部のボスは倒すことで「朱ノ首輪」を奪い、鬼と化した神としての本来の姿を解放することも可能です。解放された神は一族の交神相手として力を貸してくれるようになります。

一族の育成と戦闘

一族のメンバーは、戦闘で「戦勝点」を得て成長し、心・技・体といったパラメータが向上します。これらのパラメータには、火・水・風・土の属性が組み合わさった12種類があり、それぞれの「能力（現在の強さ）」「素質（伸びやすさ）」「遺伝情報（子孫への伝わりやすさ）」が一族の特性を決定します。特に「健康度」は重要なパラメータで、これが低下すると能力全体が落ち込み、最悪の場合は寿命を待たずに命を落とすため、常に管理が必要です。また、「忠誠心」が低いと家出されてしまうことがあります。

戦闘では、物理攻撃や術、そして「健康度」を消費して放つ強力な「奥義」を駆使します。術には複数人で同時に唱えることで効果を高める「併せ技」が存在し、補助系の術の重ねがけが非常に有効です。奥義は職業ごとに異なり、親から子へ継承させることも可能です。一族のメンバーは「剣士」「薙刀士」「弓使い」などの職業に就くことができ、それぞれに特徴や得意な戦い方があります。指南書を入手することで、槍使い、拳法家、壊し屋、大筒士、踊り屋といったより多くの職業を選択できるようになります。

戦闘で勝利すると「戦利品スロット」が回転し、敵が持っていたアイテムを獲得できます。稀に発生する「熱狂の赤い火」の時間帯は、レアアイテムの入手確率が上昇するチャンスとなります。出撃隊には「隊長」を任命する必要があり、隊長の体力が尽きると強制的に帰京となるため、誰を隊長にするか、どのように守るかも戦略となります。敵グループにも「大将」が存在し、大将を倒せば他の敵が残っていても勝利となりますが、大将は不利になると逃亡し、戦利品を持ち去ってしまうため注意が必要です。

個性的な登場人物たち

物語を彩る登場人物も魅力の一つです。一族を天界からサポートする明るく大雑把な少女「イツ花」。中性的で皮肉屋ながら一族を導く謎多き少年「黄川人」。彼らの正体は物語の中で明かされていきます。そして、物語の始まりとなった初代当主の両親、武人「源太」と天女の血を引く「お輪」。主人公一族の宿敵である「朱点童子」は、単なる悪の親玉ではなく、その存在の広義的な意味が物語の深みを与えています。他にも、人間との悲しい関わりを持つ神々（雷電五郎、敦賀ノ真名姫、氷ノ皇子など）や、鬼と化したかつての人間たち（大江ノ捨丸、九尾吊りお紺、崇良親王など）が登場し、それぞれの背景が描かれています。

リメイク版での進化

2011年に発売されたPSP版リメイクでは、グラフィックの向上はもちろん、システムの調整や追加が行われています。アドホック通信による他のプレイヤーとの交流要素、一部職業や術・奥義のバランス調整、ラストボスの強化といった変更点に加え、オリジナル武器の製作や奥義の併せ技、新たな神々の追加、クリア後の「裏京都」モードなどが追加され、より遊びやすく、さらに奥深く進化しました。

『俺の屍を越えてゆけ』は、世代交代というユニークなシステムと、美しくも哀しい和風ファンタジーの世界観が見事に融合した、唯一無二のRPGとして、今なお多くのファンに語り継がれています。

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