倉ぼっこ

倉ぼっこ：倉を守る優しい妖怪

岩手県遠野地方に伝わる倉ぼっこは、倉の守り神として古くから親しまれてきた妖怪です。その姿は、子供ほどの身長で全身毛むくじゃら、長く伸びた髪が全身を覆うように描かれることが多いようです。しかし、決して人を害することはなく、むしろ人々を助ける、優しい存在として知られています。

座敷童子のような存在

倉ぼっこは、家の中に住みつき、幸運を運んでくれる座敷童子にも似た存在です。倉ぼっこが倉を離れると、その家は徐々に運気が衰えていくという言い伝えも残っています。普段は倉の中でひっそりと暮らしており、糸車や囃子のような物音を立てることはあっても、姿を現すことは非常に稀だと言われています。

民俗学者による記録

民俗学者である柳田國男の著書『遠野物語拾遺』では、「御蔵ボッコ」として倉ぼっこの存在が記されています。この記述によると、遠野のある家では、倉に籾殻を撒いておくと、倉ぼっこの足跡が残ることがあるとされています。また、民話研究家の佐々木喜善の著書『奥州のザシキワラシの話』では「クラワラシ」という名称で紹介され、酒屋の倉で子供のような声で「ほいほい」と声をかけたり、奇妙な音を立てたりしたというエピソードが紹介されています。

江戸時代の記録

江戸時代の文献には、本所の梅原宗得という人物の土蔵に倉ぼっこが住み着いていたという記録が残されています。この倉ぼっこは人に危害を加えることはありませんでしたが、土蔵で仕事をしている人が便意を催すと、それが倉ぼっこの出現の前兆とされ、急いで蔵から出る必要があったと伝えられています。

火災からの守護神

さらに、倉ぼっこは防火の神としても信仰されていました。ある時、近所で火事が発生し、ある家の片づけが間に合わない状況になった際、顔が見えないほど長い髪を垂らした女性の姿となって現れ、家財道具を運び出して火災から守ったという逸話も残されています。

まとめ

倉ぼっこの伝承は、人々の生活に密着した、身近な妖怪の存在を示しています。決して恐ろしい存在ではなく、家を守り、人々を助ける存在として、古くから大切にされてきたことがわかります。その姿は謎に包まれていますが、人々の生活に寄り添い、幸福をもたらす存在として、これからも語り継がれていくことでしょう。 倉ぼっこの神秘的な存在は、私たちの想像力を掻き立て、日本の妖怪文化の奥深さを改めて感じさせてくれます。

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